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「妊婦死産」で産科救急再考

2007/09/07

 先日発生した関西での救急車の交通事故のニュースをきっかけに、産科救急の危機が話題になっています。既に新聞やテレビで何度も報道された事件ですが、もう一度トレースしてみます。

 8月29日、午前5時すぎ、大阪府高槻市の国道171号交差点で、奈良県橿原市に住む女性(36歳あるいは38歳と報道されています)を運んでいた奈良県の中和広域消防組合(橿原市)の救急車と、軽ワゴン車が衝突しました。女性は高槻市消防本部の救急車に乗せかえられて病院に運ばれましたが、流産が確認されました。

 女性は、同日午前2時台に、知人の男性と橿原市のスーパーで買い物中に、出血を伴う腹痛を訴えたため、男性が119番し、午前3時少し前に救急車に運び込まれました。女性の治療を求めて、救急車は奈良県の病院や大阪府の病院に打診しましたが(報道によると9~12病院)、なかなか受け入れがかなわず、結局、高槻市内の病院を目指して走行中に、前述の交通事故となりました。

 流産した胎児についても、報道によって当初妊娠3カ月、あるいは妊娠6カ月とされましたが、どうも最終的には妊娠7カ月だったようです。病院探しが難航した背景には、女性が産科を受診しておらず、かかりつけ医がいなかったため、奈良県の搬送システムが機能せず、病院探しが難航したという事情があったと指摘されていますが、救急車からの受け入れ要請に応えることのできなかった病院の一つである奈良医大附属病院は、次のような釈明をホームページに掲載しています。

 今般の妊婦救急搬送事案について去る8月29日、救急搬送中の妊婦さんが不幸にも死産にいたりましたことについて、誠に遺憾に感じております。
 今回の事案につきましては、マスコミを通じて、さまざまな報道がなされておりますが、当病院の産婦人科における8月28日から29日にかけての当直医師の勤務状況や当病院と救急隊とのやり取りについて調査しましたので、その結果を公表いたします。

平成19年8月28日の当直日誌記録より
(産婦人科当直者 2名)
時間 対応内容
8月28日(火) 夕方から抜粋
19:06 妊娠36週 前回帝王切開の患者が出血のため来院、診察後に帰宅
19:45 妊娠32週 妊娠高血圧のため救急患者が搬送され入院、重症管理中
09:00~23:00 婦人科の癌の手術が終了したのが23:00、医師一人が術後の経過観察
23:30 妊娠高血圧患者が胎盤早期剥離となり緊急帝王切開にて手術室に入室
23:36~00:08 緊急帝王切開手術
00:32 手術から帰室、医師一人が術後の処置・経過観察をする。重症のためその対応に朝まで追われる。妊婦の対応にもその都度応援する。当直外の1名の医師も重症患者の処置にあたり2:30ごろ帰宅

8月29日(水)
02:54 妊娠39週 陣痛のため妊婦A入院、処置
02:55 救急隊から1回目の電話が入る(医大事務当直より連絡があり当直医一人が事務に返事) 「お産の診察中で後にしてほしい」、そのあと4時頃まで連絡なし
03:32 妊娠40週 破水のため妊婦B入院、処置 (これで産科病棟満床となる)
04:00 開業医から分娩後の大量出血の連絡があり、搬送依頼あるが部屋がないため他の病棟に交渉
04:00頃 この直後に救急隊から2回目の電話が入る 「今、当直医が急患を送る先生と話しをしているので後で電話してほしい」旨、医大事務が説明したところ電話が切れた
05:30(病棟へ)  分娩後の大量出血患者を病棟に収容 (産科満床のため他の病棟で入院・処置)
05:55 妊婦Aの出産に立ち会う。その後も分娩後出血した患者の対応に追われる
08:30 当直者1名は外来など通常業務につく、もう1名は代務先の病院で24時間勤務につく」

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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