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医療版「事故調査委員会」の検討始まる

2007/03/02

 日経メディカル オンラインの福島県立大野病院の刑事裁判のリポート(「福島・大野病院事件の第2回公判が開催」「医師が刑事裁判の証人になったとき」)や本ブログへのコメントを読みながら医療刑事システムのことを考えていたら、2月26日朝日新聞の朝刊で、厚生労働相が今春、警察以外の専門機関が医療行為中の死亡事故について、原因を究明する制度の創設に向けて本格的に検討を始めるとの記事に出会いました。

 「事故調査委員会」というと、航空機事故や鉄道事故でおなじみですが、その医療版を創設すべく検討会を厚労省が立ち上げようとしているという話です。確かに、警察や検察は、事件として捜査を進め、有罪とすべく起訴することはできても、事件を医療リスクマネジメントの見地から検討して再発予防につなげたり、医療システムの改善につなげる力は持っていません。そういう観点からすると、医療事故の再発を防ぐシステムの改善には、医療事故調査委員会の設置は必須ともいえるでしょう。この検討会は、新年度早々に、医療関係者、患者団体代表、法律家、法務省、警察庁関係者で構成されるとのことで、医療紛争を裁判外で解決する制度(ADR)の導入の是非も検討されるといわれています。

 そもそも、医療関連死についても医師法第21条の届出義務を負うという最高裁判所判決が出ているものの、医師法は「異状死」の定義を明確、詳細にしているわけではありません。それを何とかしたいという厚労省と日本内科学会などが協議して2005年秋から始まった「第三者機関による診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」も、まだ5年間のパイロット期間が過ぎる前に、福島県立大野病院の産婦人科医が、この医師法違反や業務上過失致死罪で逮捕・起訴され、公判中です。

 身近な医療従事者からも「結果が悪ければ刑事立件されるならば、ハイリスクを敬遠せざるを得ない」とか、「医療労働環境の劣悪化で身体を壊しかねないところに、刑事訴追の危険で医師の逃散が進む」、あるいは「厳しい責任追及が、かえって事態を内攻化させ再発防止を遠ざけないか」との声も耳にしています。厚労省も、このまま放置できないところまできているものと推測します。

 このような脱刑事的原因究明システム構築の模索は、正攻法と評してよいもので、基本的に今までも望まれてきたところです。そういう意味で、この企画が進んでくれればと考えます。ただ、この朝日新聞の記事に岩瀬博太郎千葉大法医学教授がコメントしているように、重要なポイントがあります。遺族と医師への公正さの確保です。仮に、事故調査委員会という制度ができても、十分に公正さを示せなければ、この制度は持たないかもしれません。

著者プロフィール

竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。

連載の紹介

竹中郁夫の「時流を読む」
医療のリスクマネジメントを考えるには、医療制度などの変化に加え、その背景にある時代の流れを読むことも重要。医師であり弁護士の竹中氏が、医療問題に関する双方向的な意見交換の場としてブログをつづります。

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