2007年冬、フェローシップ1年目でグラント(研究助成金)申請のゴーサインが出たのは良かったのですが、申請するためにはリサーチ・メンター(研究の後見人、指導教授)を決めなければなりませんでした。
僕が申請するFグラントはあくまでもフェローシップ・トレーニングをサポートするものなので、研究を指導する後見人の良し悪しが合否を決めるといわれています。その判断基準は単純明快、後見人本人がどれだけのNIH(米国立衛生研究所)グラントを現在獲得しているかで決まります(過去の栄光は考慮されない)。それは、NIHが「後見人本人がR01(独立した研究者対象の助成金)を維持できていなければ、その弟子を指導できるわけがない」と判断するからだとされています。
それはごもっともなのですが、現在アメリカは戦争していることもあり、NIH全体の予算は絞りに絞られ、グラントの採用率は再提出を含めて1割という冬の時代。誰もが知っているような有名学者もグラントを失っている状況で、グラントを維持することは至難の業となっています。ちなみに、誰がどのグラントをどれだけ保持しているかは、インターネットで公開されているデータベースで検索すれば一発で分かります。
VCU医学部内の名うての教授と面接することに
僕は腫瘍外科のフェローなので、外科でR01を維持している教授に弟子入りするのが一番簡単なのですが、実はVCU(バージニア州立大学)外科には一人もいなくなっていました。僕の上司、クマさんことハリー・ベア腫瘍外科主任教授は外科のみならず免疫学の教授タイトルも併せ持つダブルアポイントメントなのですが、その彼をもってしても、2006年にR01の更新に失敗していたのです。そこで、日本では信じられないくらいおこがましい話ですが、VCU医学部全体でR01を維持している教授をリストアップ、クマさんに推薦状をメールしてもらい、名うての教授たちとの面接に臨みました。
新規に会員登録する
会員登録すると、記事全文がお読みいただけるようになるほか、ポイントプログラムにもご参加いただけます。
著者プロフィール
高部和明(米バージニア州立大学腫瘍外科クリニカルフェロー)●たかべ かずあき氏。1992年新潟大卒。米ソーク研究所に研究留学し学位取得。UCSD外科レジデンシープログラム修了後、06年から現職

連載の紹介
高部和明の「アメリカで外科医」
腫瘍外科クリニカルフェローとして臨床・研究に従事する高部氏が、米国の医療現場で「今」起こっていることを現地報告。米国で臨床医として生き残るために格闘する生の姿をお伝えします。
この連載のバックナンバー
-
2008/10/17
-
2008/07/07
-
2008/05/07
-
2008/04/22
-
2008/03/28