
腸アニサキスが内ヘルニアと腸閉塞を起こした症例報告。American Journal of Gastroenterologyに掲載された(Takabe K,AJG.1998;93:1172-3)。おびただしい数の日本の報告をまとめたため、ハリソンの内科学(15版)にも引用された。
アメリカの大学医学部でアシスタント・プロフェッサーとして雇われるために、僕自身のウリは何かと自らに問いかけてみると、やはり僕が日本で受けてきたアカデミックでの教育やトレーニングを活かせる、研究業績と能力に行き着きました。
僕が新潟で駆け出しだったころ、多少なりとも珍しい症例があれば「症例報告を書きなさい」とオーベンから言われ、寝不足でしょぼしょぼした目をこすってヒィヒィ言いながらまとめた思い出があります。また、横浜市立大学の大学院生の時は、外科学会、消化器外科学会と関連学会の演題提出期限が近付くたびに、ポスターでいいから手持ちのデータをまとめて発表しろとプレッシャーをかけられ、数少ないデータからどのようなストーリーにまとめられるか必死に頭をしぼったものです。世界的に認知されている学術論文データベース「Pubmed」に僕の名前が初めて載った論文も、新潟大学の先輩がまとめられた症例報告でした。
一方、アメリカの外科レジデンシーでは、リサーチ期間に入らない限り、臨床ローテーションの合間に症例報告や臨床研究をまとめたりすることは非常にまれです。そして外科レジデントたちは口々に、「症例報告はエビデンスとしての価値が最も低い」とか「一流ジャーナルは症例報告をほとんどアクセプトしない」などと言い、症例報告をまるっきり見下しています。
それはまさしくその通りなのですが、連日、朝から晩まで患者さんたちに張り付いているレジデントほど一人ひとりの症例に精通している医師はなく、どれだけ深くその症例にくらいつくことができるかが、臨床医としての質を決めると僕は思います。
さらに、うまくいったこと、失敗したことを報告することで、他の医師に有益な情報を提供することはできると思います。加えて、有益な報告をするためには、何が知られていて、何が新しいのかといったメッセージを明確にする必要があり、症例を科学的に分析して論文としてまとめるトレーニングになるのです。