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うちのクリニックにもやって来た「威圧する付添人」

2015/04/21

 私は月に1度、美容院で髪をカットしてもらっています。私の通う美容院は、オーナーである60代の女性美容師さんがお一人で切り盛りしています。先日、電話で予約した時間に美容院に出掛けたのですが、ドアに鍵が掛かっていて開きません。「あれ?」と戸惑っていると、すぐに中からオーナーさんが「ごめんなさい!」と出てきました。「最近、ちょっと怖いことがあって、営業中に鍵をかけているんです」とのこと。「どうしたんですか?」と尋ねてみますと…。

女性オーナーが脅威に感じたある男性客
 「身体の大きな作業着を着た40代くらいの男の人が来て、『散髪してくれ』って言うんです。目付きがちょっと怖い感じの人だったので、『今日はご予約でいっぱいです。申し訳ございません』ってお断りしたんです。数日後また同じ人が来て、『空くまでいつまでも待つから』ってそこの椅子に座って、いきなりパンを取り出してむしゃむしゃ食べだして…。その時もなんとかお引取りいただいたんですが、私怖くなっちゃって」とオーナー。

 女性オーナー1人で、お客さんもほとんどが年配の女性の小さな美容院ですから、そのような男性がいきなり来て、さぞ怖かっただろうと思います。「うちは入り口が1つしかなくて。もし男性が乱入して来るようなら、お客さまは奥の休憩室から逃げていただいて、中から鍵かけなくちゃ…とか、色々なこと考えまして。そういう訳で、ごめんなさいね」とのことでした。

 オーナーの話を聞きながら、私は2001年に東北で起こった金融会社への放火事件を思い出しました。強盗目的で侵入した犯人が金を要求するも断られ、カウンターでガソリンを撒いて放火、逃亡した事件です。この店舗はビルの3階に入っており、出入り口が1つしかなかったために、逃げ遅れた店員さんがたくさん亡くなるといういたましい事件でした。当時、大きく報道されたので記憶に残っている方もいらっしゃると思います。「物騒なことも多いですから、気を付けてくださいね」とその時はオーナーさんに言った私ですが、その数日後、自分自身が怖い経験をしようとは思いもよらなかったのでした。

まさか私が遭遇するとは…声を荒げて詰め寄ってきた付添人
 1人で外来をしていたある日のこと。午前の受付時間が終了する10分前に電話がかかってきました。取り次いだスタッフが「救急隊からです」と言います。電話を替わり、話を聞くと80代の女性が片眼の視力低下と眼痛で救急車を呼んだので、診てくれないだろうかということでした。いつも院長が診ている患者さんでしたので、院長が不在であることを伝え、私が受けることにしました。

 その患者さんのカルテを出してもらって見ていると、すぐに救急車が到着しました。80代のおばあさんに、身体の大きな40代くらいの男性が付き添っています。さっそく診察を始めたのですが、ぶどう膜炎とその炎症に伴う続発性緑内障でした。ぶどう膜炎も緑内障も、開業医でも点眼治療でコントロールできるレベルだと判断し、病状と薬剤の説明をすませました。

 しかしその後、私の言った「クリニックの診察時間内でしたら、これからは救急車を呼ぶ前にこちらにお電話して貰ったほうがいいかもしれませんね」という一言に、付き添いの男性が声を荒らげて詰め寄って来ました。「お前、このおばあさんのこと何も知らんくせに何言うとんねん!それでも医者か!」。話を伺うと、患者さんのご家族だと思っていたこの男性は、独居しているおばあさんのアパートの管理人さんでした。眼の不調を不安に思ったおばあさんが管理人さんに相談して、管理人さんの判断で救急車を呼んだとのことでした。

著者プロフィール

さかい あい(ペンネーム)●アラフォー、独身の女性フリー眼科医。関西在住。十数年の病院勤務後、一身上の都合でフリーに転身、町の眼科クリニックに勤務。仕事は結構忙しいが、オン/オフはっきりした生活をエンジョイ中。

連載の紹介

さかいあいの「今日はどないしはったん?」
関西在住の女性フリー眼科医、さかいあい氏によるエッセイ。日々の診療や患者さんのこと、趣味や楽しみ、気になる事件など、話題てんこ盛りです。ブログタイトルは、さかい氏が診察を始めるときの決まり文句。

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