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ニューヨークの保育事情~ナニーか?保育所か?~

2015/01/26
緒方さやか

 「アメリカでは待機児童問題ってあるの?」

 日本にいる友人に、最近よく聞かれる質問だ。どこにも預け先がなく仕事復帰できないといった日本で言われるような問題はないかもしれないが、一部の人気のデイケア(保育所)では待機者リストがあるのが当たり前だ。ほかにも保育サービスの選択肢は多いが、それも「お金次第」といったところ。あくまでも「合衆国」で州ごとに免許も法律も違うアメリカのことだ、一概に「アメリカでは」などと言うことは難しいが、ニューヨーク市のクイーンズに住んでマンハッタンの職場に通っていた者の一例として、私の経験が参考になればと思う。

 周囲の人に強く勧められた通り、私は妊娠後期に保育所を探し始めた。アメリカの典型的な産休はわずか12週間。しかし私は、もう少し長く家にいたいと思い、上司に頼んだところ、すんなりと約3カ月半の産休を許可された(ちなみに、上司は独身で子どものいない女性医師だったが、子どもがいるスタッフへの理解がある人だった。子どもともっと時間を過ごしたいと言う部下に、ダメというアメリカ人はそういない)。当然だが、産休が終わる前に、保育所もしくはナニー(フルタイムで働くベビシッター)を決めておかなければならない。

 ナニーは、マンハッタンの上流家庭では多く利用している保育サービスである。朝から家に来て(もしくは住み込みで)子どもを見てくれるので、親は楽であるが、「そのナニーがひどい人だったら、致命的だよね。1日中赤ちゃんを放っておいても、親には分からないわけだし」と友人に指摘された。

 たまの平日にアッパーイーストの高級街を歩く機会があると、ナニーたちが、気のない顔で金髪の赤ちゃんの乗っているベビーカーを押しながら、ウィンドーショッピングをしたり、長電話をしていたりする。そのナニーの顔が本当につまらなそうで、ナニーにとっても、そして赤ちゃんにとっても良い状況ではないのではないかと感じ、胸を痛めた。

 もちろん、素晴らしいナニーもいるだろうが、私は週500~1000ドルという高額な費用をナニーに払い、賭けをするつもりはなかった(ちなみに日本人は、赤の他人と交渉して個人的に雇わなければいけない、その他人がずっと自分の家にいる、という点で、ナニー制度への抵抗が大きいと聞いた)。保育所にすれば、一定の質は保証されるのではないだろうか、と判断し、保育所を探すことにした。

家庭的な「ファミリーデイケア」に好感
 まずは、同僚の医師も利用している、職場のすぐ近くにあるチェーンの保育所を見学した。清潔そうな広い空間で 、屋内のみ。生後2カ月から5歳までの子どもを預けられるという。新生児は、朝8時から夕方6時までで月2100ドルと、高額なのに加えて、保育士の投げやりな感じが気になった。職場の近くだと昼休みに会いに行けると思っていたが、考えてみると、日々重くなるベビーと電気搾乳ポンプを抱きかかえ、満員電車に乗れるのだろうか?

 では、クイーンズにある家の近くの保育所はどうだろう、と調べてみると、さすが、マンハッタンよりも安く、便利そうだ 。ちなみにアメリカでは、1歳未満の子どもを自転車に乗せることは、多くの州で違法なので、徒歩で行ける距離の施設を選びたかった。月1000~1600ドルくらいの託児所を見ていると、概ね清潔で、子どもが大勢いても、それに見合うだけの職員の数がいる(ニューヨークの法律では、2歳未満の子どもの保育は2対1、2歳以上は6対1の割合で、それぞれ職員がいなければいけない)。

 しかし、たとえ待機者が大勢いるような人気の保育所でも、実際に見学してみると、家庭らしい温かみを感じられない点が気になった。蛍光灯の下でプラスチックのおもちゃに囲まれて、時折は抱っこされるような環境ではかわいそう、と考えていたところ、「ファミリーデイケア(家庭保育所)」について知った。

 ファミリーデイケアは認可の小規模保育所で、職員は健康診断や予防接種などの指定基準を満たしており、州の虐待児察知と通報に関するトレーニングを受けている。管理者には、子どもが生まれてから始めたという主婦の人や、孫の面倒を見つつほかの子どもも見ているというおばあさんなどが多いようで、値段も安めのことが多い。ファミリーデイケアの電話番号一覧は自治体から調べられるが、いずれもウェブサイトなどはない場合が多く、宣伝をしていることは稀だ。電話をかけて、行ってみないと分からないので、中の様子を把握するまでに時間が掛かる。

 そこで、息子のかかりつけの小児科医院の看護師に聞いてみると、子どもたちがファミリーデイケアに通っているという、とある日本人家族を紹介してくれた。その家族と話した後、そのファミリーデイケアを訪ねてみると、エクアドル人女性が娘と姪と共に、12人程度の子どもたちをみていた。狭いリビングルームには オモチャと本が雑然と並んでいて、足元ではチワワが走り回り、家中に美味しそうなチキンスープの匂いが充満している。おばあさんや姪はスペイン語しか話せないので、スペイン語が話せない私の夫には不便だが、私が連絡係りになればいい。何より、子どもたちが楽しそうにしている様子が好印象だった。

 もっと息子が大きくなったら、教育などに力を入れている保育所の方がいいのかもしれないが、0歳の息子に今必要なのは、たくさん頬ずりしてくれて、近所の公園に連れていってくれるような、こういう施設だと確信した。しかも、たまたま家から徒歩で行ける距離で、朝8時から夕方6時までで週150ドルという格安の料金も有り難かった。

 幸い、息子はこのエクアドル人の家庭にすっかり馴染み、毎朝キスとハグの山に迎えられながら、笑って私にバイバイしてくれる。連絡ノートもないし、「熱を出したら1時間以内に迎えに来ること」など、他の保育所にあるような厳しいルールもない。たまにほかの子の洋服を着て帰ってきたりするところなどは、いかにも、「プロ」というよりは「親戚の家に預けてきた」という感じである。そういうのが嫌な人もいるだろうが、わが家は、これで本当に良かったと思っている。週末には、「月曜日までキヨに会えないの、寂しい!」と本気で言ってくれるエクアドル人のおばあちゃんに、感謝、感謝である。

著者プロフィール

緒方さやか(婦人科・成人科NP)●おがた さやか氏。親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にあるカイザー病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。

連載の紹介

緒方さやかの「米国NPの診察日記」
日本でも、ナースプラクティショナー(NP)導入に関する議論が始まった。NPとは何か?その仕事内容は?米国で現役NPとして働く緒方氏が、日常診療のエピソードなどを交えながら、NPの本当の姿を紹介します。

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