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妊娠で改めて直面した「キャリアと家庭の両立」問題

2012/10/31

 今まで漠然と思い描いていたキャリアと家庭の両立の夢が、妊娠が分かってから、現実の課題として迫ってきた。アメリカでの制度上の産休は、わずか12週間1)。上司に頼めば、2~3週間ほど延ばしてもらえるかもしれないが、いずれにしても保育所やベビーシッターを活用せざるを得ない。

 仕事場の近くの保育所は、お昼休みに授乳しに行けるのがありがたいが、1週間500ドル以上と高額で、経営者の印象が悪かった。家の近くの保育所は2割ほど安くなるが、空きが出る保証がない。掲示板などを通して日本人の留学生などをベビーシッターとして安く雇うことは可能かもしれないが、子供の命を預けるわけだから、どうしても不安だ。仕事を週2~3日に減らし、しばらくは子育てに注力することも考えられるが、できれば今まで通り働きたい。でも、ダンナは、今のところ主夫になる気はなさそうである。

 私はかつて、日米どちらの大学に進もうか迷った際、「将来、女性としてキャリアと家庭を両立しやすそうだから」という理由でアメリカを選んだ。日本に戻る道を諦めてまで欲しかった「両立」の道だが、いざ周りで子供を持つ人が増えてみると、アメリカでも「両立」は決して容易でないことが分かる。

 男性が家に残って「主夫」となったケースもまれには聞くが、ほとんどの同世代の知り合いの家庭では、女性が勤務時間や日数を減らすか、「子供が1~2歳になるまでは」と仕事を辞めて対応しているようだ。アジア系やラテンアメリカ系の家庭では、親が近くに住んでいる場合、子供の世話を親に頼むこともある。もう少し裕福な家庭では、通いの乳母を雇って子供の世話を任せ、夫婦ともフルタイムで働き続ける例もあるが、子供への影響が心配で非常に苦しい決断のようだ。

 子供が生まれる前は仕事に戻る気でも、「生まれてみたらどうしても置いていく気になれなくて…」という女性の話もよく聞く。自分はどうなるのだろうか。

「仕事をしつつ母親でいたい」との決断に批判が…
 さて、女性のキャリアについて、知り合いの間で評判になっている雑誌記事がある。『The Atlantic』という総合誌に掲載された、“Why women still can't have it all”――なぜ女性はいまだに全てを手中にすることができないか――という刺激的なタイトルの記事だ。「地雷地帯に踏み入れていることを承知の上で書いた」という著者のスラーター氏は、元アメリカ合衆国国務省の外交政策部部長という超エリートの女性。2年間プリンストン大を休職し、政府内の非常に高い地位に就いた。女性としてこの仕事に就くのは彼女が初めてだったという。

 スラーター氏は、オバマ氏開催の重要なパーティーに出席しながら、学校でトラブルを起こしがちな14歳の息子のことが頭を離れなかった。2年の契約期間が終わって、自ら望んでプリンストン大に戻ると、「なぜワシントンD.C.に残らなかったの? 」と様々な女性に残念がられたという。確かに、政府内に残ればアメリカの外交政策にさらに大きく関わる機会があった。

 とはいえ、プリンストン大での仕事が「簡単な仕事」なわけではない。教授として学生たちを教え、多くの著書を出し続け、年40回以上講演するキャリアを続けるのである。それでも、大学での仕事は政府の仕事と異なり、夫と2人の息子と同じ家に帰ることができ、ティーンエージャーとして難しい時期を迎えている息子たちのそばで、母親として見守ることもできる。だが、彼女は「仕事をしつつも、同時に母親でいたい」と、大学に戻る決断をしたことで、批判をされてしまうのである。

著者プロフィール

緒方さやか(婦人科・成人科NP)●おがた さやか氏。親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にあるカイザー病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。

連載の紹介

緒方さやかの「米国NPの診察日記」
日本でも、ナースプラクティショナー(NP)導入に関する議論が始まった。NPとは何か?その仕事内容は?米国で現役NPとして働く緒方氏が、日常診療のエピソードなどを交えながら、NPの本当の姿を紹介します。

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