日経メディカルのロゴ画像

精子バンクを利用する独身アラフォー女性の選択

2011/12/01

「今日は、どうしましたか?」
 その日の患者さんは、37歳の事務職のシングルマザーの女性だった。

「健康診断を受けにきました。この書類にサインが必要なんです」
 職場で健康診断が課されているのかな、と手に取ってみると、その無機質な書類の真ん中には「健康な女性であることを確認します。サイン:」とタイプしてあり、精子バンクのロゴが付いていた。

 「精子バンクを使おうか」と冗談で話す友人はいても、本当に精子を購入することを決めた人は知らない。患者さんのこのような書類にサインするのも初めてだった。

 彼女は、昔のボーイフレンドとの間にできた5歳の娘を、近所に住む自分の母親の手を借りながら育てていて、 娘のためにももう一人子供が欲しいと願っていた。「一生を共にしたいと思う男性とはいまだに出会ってないの」とため息をつきつつ、「40歳にならないうちにもう一人産んでおきたい」との思いから、精子バンクを利用することに決めたと話してくれた。相手の写真やビデオ、学歴などを見ながら選んだ精子を数千ドルで手に入れ、自分の排卵のタイミングに合わせて、注入するのだという。

 数年前までの私だったら、キャリアを模索して伴侶を探す時間が乏しく、40歳近くになって探し始めてみたら相手が見付からず、それでも子供が欲しいと願う女性に対し、自分の人生を自分の手で決めるための一手段として精子バンクを活用することにためらいもせず賛成していただろう。米国は、片親でも子供を育てやすい環境が比較的整っている。もちろん、「1人の子供をちゃんと育てるには大人1人どころか、2人だけでは足りないわね。子供をおざなりにしないで、しかも疲労困憊してぶっ倒れないためには、親は10人くらい必要」と言う友人もいるくらいだから、簡単なことではないのだろうが。

 女性が子供を産める期間は限られている。女性が男性と同じ戦場でキャリアを求めて刃を交える現代社会では、精子バンクはそのような女性の「家庭を持ちたい」という望みを支える重要な存在なのである。また、子供が欲しくて精子バンクにまで行って妊娠した女性の方が、“できちゃった”後にためらいつつも産む女性よりも母親として劣っているとは、決して言えないのではないだろうか。

母親違いの兄弟が1都市で150人も
 キャリアと家庭との両方を追い求めることは、男女に関係なく認められるべき権利だと信じているが、そんな現代人の貪欲さのおかげで大金を得ている業界が存在するのも事実だ。本来、男性に原因のある不妊カップルやレズビアンのカップルのために始まった米国の精子バンクは、このような一般女性にも対象を広げつつ、多くの「優秀な」男性の精子を買い取って、いまや大きなビジネスに発展しているらしい。

著者プロフィール

緒方さやか(婦人科・成人科NP)●おがた さやか氏。親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にあるカイザー病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。

連載の紹介

緒方さやかの「米国NPの診察日記」
日本でも、ナースプラクティショナー(NP)導入に関する議論が始まった。NPとは何か?その仕事内容は?米国で現役NPとして働く緒方氏が、日常診療のエピソードなどを交えながら、NPの本当の姿を紹介します。

この記事を読んでいる人におすすめ