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卒業後でも使える米国の「地域枠」制度

2011/04/15

 今回は、前々回、「米国で学費を工面する6つの方法」の最後に少し触れた「ローンキャンセリングプログラム」について解説したい。
 
 米国では専門性が高くなるほど給与が高くなる。病院勤務の心臓外科医は、同じ地域のプライマリケアを担う家庭医の数倍の給与となる。都会の学生に過疎地でプライマリケアに従事してもらうのは、いくら空気が美味しくても、例え裏庭でスキーができようと少々無理がある。学生や医療者を誘致する上で一番効果があるのは、やはりお金である。

 そのために用意されているのが、政府ローンの返済を免除するプログラムだ。前回書いたように、医療関係の学生は、多大な借金を背負ってキャリアの第一歩を踏み出すことが多い。だからこそ、政府ローンの返済免除が意味するものは大きい。

卒業後に申し込める免除申請プログラム
 政府ローンの返済免除のプログラムは、「Loan Forgiveness Programs」と呼ばれ、国レベル、州レベル、地域レベルなどの種類がある。

 そのうち最も有名なのは、U.S. Department of Health and Human services(保健福祉省)が行っているNational Health Service Corps(NHSC)だろう。地理的、あるいは経済的に医療のアクセスが限られた地域の医療機関で働くことを条件に返済が免除されるというものだ。例えばモンタナ州の山間地帯のような過疎地やハワイにある先住民のための診療所、マンハッタンのハーレムで政府援助を受けているプライマリケアクリニックで働くことで、返済が免除される。2011年度、オバマ政権はNHSCに対する予算を1億6900万米ドル(約140億円)に引き上げ、医療者の偏在への対策としている。

 このプログラムの対象は、米国籍を持っている看護助産師、歯科医、精神科医、そしてプライマリケアで働きたい医師/NP(ナースプラクティショナー)/PA(フィジシャン・アシスタント)など。免除額は2年間で6万米ドル (約500万円)、5年間で17万米ドル(約1400万円)と巨額だ。日本にも、地域で働くことを条件に学費を免除する地域枠の制度があると聞く。だが、米国の制度では、卒業後でも認可地域に仕事が見つかればNHSCを利用できる点が日本の地域枠制度と異なる。「卒業してへき地でたまたま仕事が見つかったので、NHSCに申し込む」ということもできるし、「卒業間際に結婚が決まり、相手の異動についてニューヨークに移ることになったので、ホームレスシェルターを回診する仕事が見つかった」というのでもOKだ。

 日本の地域枠のように、高校卒業の時点で、「将来●●で最低2年は働きます」というのは、自分の人生を売り渡すようで怖いものだ。在学中は過疎地に行くつもりであっても、妊娠、結婚など、数年間のうちに人生が思わぬ方向転換をしてしまうこともあるだろう。

 フルタイムでなくていいのも利点だ。フルタイムで2年間働く代わりに、パートタイム(週20時間)で4年間働いても同様のローン免除が受けられるため、健康上の理由や子供のためにフルタイムで働けない人でも利用できる。 40代、時には50代から医師やNP、看護師を目指す人も少なくない米国ならではの、フレキシビリティーが高い制度である。

著者プロフィール

緒方さやか(婦人科・成人科NP)●おがた さやか氏。親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にあるカイザー病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。

連載の紹介

緒方さやかの「米国NPの診察日記」
日本でも、ナースプラクティショナー(NP)導入に関する議論が始まった。NPとは何か?その仕事内容は?米国で現役NPとして働く緒方氏が、日常診療のエピソードなどを交えながら、NPの本当の姿を紹介します。

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