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特定看護師はNP導入の可否を問う試金石

2010/04/13

 特定看護師のモデル事業案を提示した厚生労働省に対して、賛成、反対の両意見を様々な医療関係者が発している。日本医師会を代表して検討会の委員を務める日医常任理事(当時)の羽生田俊氏は、この提案に対して「唐突だ」とコメントし、「特定看護師の争奪を招きかねない」と批判する一方、日本看護協会は厚労省の会議の席上、副会長の坂本すが氏が「日本型のナースプラクティショナーNP)を早急に導入すべきで、そのための法整備をしてほしい。また、これと同時に一般の看護師が包括指示の元で行っている業務の要件を整備してほしい」と発言するなど、積極的な姿勢が目立つ(関連記事:2010.2.25「日医、特定看護師の創設に『すべてをかけて』反対」2010.3.23「厚労省、『特定看護師(仮称)』の創設を含めた報告書を発表」2010.3.24「日医、看護師の業務拡大には反対せず」)

 今、なぜあえて特定看護師というものが提案されたのだろうか。厚労省の「チーム医療の推進に関する検討会」の第10回までの議事録、資料を振り返り、看護に関連する部分についてのみ、私見を述べたいと思う。

ただの労働強化では看護師は働けない
 今回の検討会の議論を見ていて感じるのは、厚労省は医師不足に伴う医療崩壊について、短期と長期の2つの視点から医療体制の改革を目指しているのではないかということだ。

 報告書ではまず、現行の保健師助産師看護師法のまま、医師からの包括的指示の下で看護師を積極的に活用することが提案されている。現状では、施設による違いが非常に大きいと聞いている。看護師がシーツ換えや配膳を行い、医学的な判断が必要なことは逐一医師を呼んでいる病院もあるという一方、褥瘡や頻尿に関しては看護師が検査や治療を提案し、医師は確認するだけという病院もある。

 看護師がほかの医療従事者と相談しあい、高度なレベルで患者のケアにかかわることで、インフルエンザ罹患率の低下、 褥瘡の減少などに至ったという話も聞く(残念ながら、日本で看護師を積極的に活用したチーム医療体制投入前と後の、患者のアウトカムを比較した資料を筆者は持っていないが、そのような科学的検証や報告がもっと行われることを願っている)。このような看護裁量権および業務の拡大は、確かにすぐにその効果が期待できるであろう。

 しかし、医師だけではなく、看護師も過労が問題になっている。2008年には国立循環器病センターで働く看護師の過労死が公務災害と認められた。また、日本看護協会の推計によると、月60時間以上の時間外勤務をしており、過労死水準にある看護師は約2万人で23人に1人。交代勤務の間隔が6時間以下になる人も6割近くいるという(1。

 現場の疲弊を考えると、看護助手医療クラーク、ベッド環境を整える業者などの看護師のサポート役を大量に導入しない限り、看護スタッフの仕事内容を単純に増やそうというのは暴論である。また、診療報酬での裏付けがなければ、増えた仕事量や重くなった責任に対する金銭的報酬やスタッフの増員は見込めず、看護師の“やりがい”のみに頼っての業務拡大となる。医療従事者の自己犠牲の精神に頼っただけの改革は、もう時代遅れではないだろうか。だからこそ、検討会の議論は看護師の業務拡大だけにとどまらず、厚労省は「特定看護師」という新制度を打ち出し、長期的な改革への第一歩を踏み出したのではないだろうか。

著者プロフィール

緒方さやか(婦人科・成人科NP)●おがた さやか氏。親の転勤で米国東海岸で育つ。2006年米国イェール大学看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。現在、カリフォルニア州にあるカイザー病院の内分泌科で糖尿病の外来診察を行っている。

連載の紹介

緒方さやかの「米国NPの診察日記」
日本でも、ナースプラクティショナー(NP)導入に関する議論が始まった。NPとは何か?その仕事内容は?米国で現役NPとして働く緒方氏が、日常診療のエピソードなどを交えながら、NPの本当の姿を紹介します。

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