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南相馬市立総合病院が初めての初期臨床研修医を受け入れて(後編)
ラジオ出演、牛の飼育も選べる初期研修プログラム

2013/07/02
小鷹昌明

仮設住宅の折り紙同好会で住民と語らう、広島大学病院から来た初期研修医。

 南相馬市立総合病院で初めての初期研修医を迎えるに当たり、もうひとつ、ぜひ体験してほしいと思ったことは、“楽しめる医療”である。医療を通じて街の復興に貢献できることが、このうえなく非日常的でエキサイティングであり、暮らし自体が創造的でイノベーティブである。医師がより高いパフォーマンスを発揮するための原動力は、その行動が“楽しいか否か”にかかっている。

 病院に限らないかもしれないが、仕事場などというところは責任感があって、勤務査定が公平で、尊敬できる上司がいて、愉快な仲間がいれば、どんな場所でも楽しい。逆に、無責任で、不公平で、嫌みな上司と、感じの悪い同僚に囲まれていれば、どれほどエグゼクティブで、リーディングで、ソフィスティケイトされた仕事をしていても全然楽しくない。研修の原点は楽しい病院で働くことである。

 だからと言って、つき合う相手として「行動パターンや生活感覚やアクティビティや価値観がピタリと合う人間とでなければうまくいかない」というものではない。自分とは違う考えや行動を取る人間の方が、新鮮に見えることも多い。ここにいる医療者たちの個性は強い。私を想像してもらえればわかる通り、こうして文章を書きつけながら生活し、診療し、余暇を楽しみ、人と議論している。ここの人々は、それぞれが与えられた役割や立場や思想で、私とは次元の違う価値観で信じたいものを信じて行動している。そこがとても魅力的なのである。

 普段は真面目に診療している医師が、休日にはオヤジたちと「木工教室」を開催したり、東京マラソンに出場したり、山登りを先導する。仮設住宅でチェロを弾いたり、ラジオのパーソナリテイーを務めたり、霞ヶ関で官僚を相手に一席ぶったりもしている。そんな連中たちの感覚が一致するはずがない。「価値観を一致させない」という価値観を持って、この街のために動いている。それが、非常に良い循環を生み出しているのである。

医師として社会人として成長できるプログラムを
 医学生たちは、明確化されたシラバスを吟味したうえで研修病院を探すであろう。もちろん、それは正しい行動原理である。しかし、医師が医療以外のさまざまな行事やボランティアに参画しているここには、シラバスに載せられない何かがある。

 私たちにとっては、研修プログラムは予め存在するものではなく、これからの研修医たちと創っていくものであった。ハッタリに近いかもしれないし、大風呂敷を広げ過ぎた感はあるが、そうした想いを込め、突貫工事で研修プログラムを作成した。ようやく完成したプログラムには、研修医であると同時に社会人として成長できるいろいろなオプションを用意した。地域医療枠で既に学びに来ている研修医に対して、私たちが勝手に考えて実行してきたカリキュラムだが。

著者プロフィール

小鷹昌明(南相馬市立総合病院神経内科)●おだかまさあき氏。1993年卒後、某大学神経内科に所属し、病棟医長、医局長、准教授を歴任。一念発起して2012年4月から現職。「今、医療者は何を考え、どうすべきか」をテーマに、現場から情報発信を続ける。

連載の紹介

小鷹昌明の「医師人生・四“反省”期」
医学部入学から四半世紀になろうとしている小鷹氏。自分の医師人生を四“反省”期として振り返ります。医療・医学、社会問題・社会現象、人間関係・生き方、自らのこだわりといった4つのテーマについて、様々な角度から語ります。

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