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日本は医薬品の後進国でいいのか

2006/06/07

 臨床試験の体制を整備しないと、日本は医薬品分野で「後進国」に成り下がってしまうのでは、という危機感がますます募っています。

 私は、米国における医療・医薬品の動きを知るために、最低でも1~2週間に1度は米国食品医薬品局(FDA)のホームページに目を通していますが、この2年ほど、治験の推進とそれに付随する医療のオーダーメイド化に関する発表が、目立って多くなったと感じています。

 年次を追って、主な項目を書き出してみました(添付の表を参照してください)。特に、2月14日の「癌治療の改善に向けた新たな国家的取り組みについて」は、重要な発表でした。これは、日本の厚生労働省に相当する組織から出されたもので、国を挙げて、より迅速かつ効率的に抗癌剤を開発していく姿勢を示した内容です。この発表で注目されるのは、「バイオマーカー」というキーワードです。

 バイオマーカーは、尿や血清中に含まれる生体由来物質や遺伝子などによって、生体で起こっている変化(あるいは、起こる可能性の高い現象)を把握・予測するための指標(マーカー)です。例えば、腎機能を評価する際に測定する尿中アルブミンや、肝機能の指標となるALT、ASTなどは、良く知られているバイオマーカーです。

 古典的なバイオマーカーの定義は、ある特定の疾病や体の状態に相関して、量的に変化するため、その量を測定することで疾病の診断や、薬剤を使い分けするための指標になります。最近探索されているバイオマーカーの定義は広くなり、遺伝子発現、遺伝子多型、蛋白、ペプチド、メタボライトなど、多岐にわたっています。そして、米国は、診断を目的としたバイオマーカー研究に大きな力を注いでいます。

 例えば、ワシントン州シアトルにあるフレッドハッチンソンがん研究所では、アジア諸国の研究者とも連携して、大がかりなバイオマーカー探索プロジェクトを進めています。早期発見だけでなく、治療の指標になるようなバイオマーカー研究に取り組んでいるようです。

 そして現在、製薬企業が進める治験でも、単に薬剤の効果を検証するだけではなく、同時に、診断や効果判定に用いるバイオマーカーを見つけ出すことを重要な目的としています。未発表ですが、ある企業では、有効性の低かった薬剤を、遺伝子をバイオマーマーとする方法で対象患者群を絞り込むことによって、有効性を高めることに成功したそうです。今後、世界的な標準として、薬剤とバイオマーカーをセットで承認することになるでしょう。

 翻って、日本では、治験を推進する体制の整備も遅れていますし、バイオマーカーの探索に対する取り組みも遅れています。そのため、日本が医薬品分野で後進国になってしまうのでは、と危惧しているわけです。

著者プロフィール

中村祐輔(東大医科学研究所教授)なかむら ゆうすけ氏 阪大医学部を卒業し、大阪府立病院、市立堺病院などで外科医として勤務。臨床の現場で生まれた「なぜ正常細胞が癌化するのか?」という疑問を解くべく渡米、染色体地図作りに貢献。91年に大腸癌の癌抑制遺伝子を発見。95年より現職。

連載の紹介

中村祐輔の「Let's 個の医療」
患者の直面する問題を解くことこそ医学研究”をモットーとする中村氏が、急速に進展するオーダーメイド医療、世界に取り残されつつある日本の実情などを、気の向くままに紹介していくブログです。遺伝子診断をはじめ、臨床現場に普及し始めた「個の医療」の今をお届けします。

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