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指示の出し方に見えるリーダーの資質

2009/06/19

 「木を見て森を見ず」。小さいことに心を奪われて、全体を見通さないことのたとえとして使われる言葉です。言い方を変えれば、「全体として美しい森であることをイメージしながら、一本一本の木を育てることが大切だ」とも言えるでしょう。

 これは、組織運営を司る人間が、強く心に留めておくべきことでもあります。

「景気対策」と「地球温暖化防止」の整合性は?
 2008年4月1日、ガソリン税の暫定税率が失効し、ガソリンスタンド業界では熾烈な値下げ競争が展開されました。しかし、その1カ月後の4月30日には、与党はガソリン税の暫定税率を復活させる法案を成立させ、従来と同じ税率に戻りました。

 その後、原油高騰のあおりを受けて漁業用燃油価格が上昇。その影響でイカ釣り漁船が一斉休漁に踏み切ったのは記憶に新しいところです。一般市民も車の使用を控え、交通渋滞も緩和されました。当時政府は、「ガソリン高騰も、CO2削減と地球温暖化防止のためにはよいこと」とコメントしたりしていました。

 しかし今年の3月、景気回復を目的に「ETC利用で土日祝日の高速道路は1000円で乗り放題」という政策が始まりました。直後のゴールデンウィークの高速道路は予想通りの大渋滞。ある程度の景気回復につながったかもしれませんが、大量の車が排気ガスをまき散らし、CO2は当然増加しているはず。地球温暖化防止はどこへやら…。

 その後の6月10日、麻生首相は官邸で会見し、2020年までの温室効果ガス排出削減目標を、「2005年比15%減(1990年比8%減)」とする方針を発表しました。何か論理の一貫性を欠いているような気がします。「あれ~先輩、今回の発言は前に言っていたことと矛盾しませんか?」。組織内でしばしば耳にする、こんな台詞を思い出させる会見でした。

 「経済対策」と「環境問題」のような相反しがちな事項の解決を図る場合、考え方は3通りあります。1つは「どちらかの事項を優先させる」です。この場合、優先されなかった事項に関しては、悪化することを覚悟しなくてはなりません。 2つ目は、「どちらの事項に対してもそれなりの配慮をした中庸政策」です。これはどちらも中途半端に終わり、「二兎を追うものは一兎も得ず」となる可能性があります。

 そして3つ目は「知恵を絞って発想を転換し、両方の事項がうまくいく方法を考え出す」です。米国オバマ政権が打ち出した「グリーンニューディール政策」は、その1つではないでしょうか?成功するかどうかは別として、相反しやすい「環境対策」と「経済対策」のベクトルを同じ方向に合わせたこの政策は、発想の転換といえるでしょう。安易に前者のいずれかの方法を取るのではなく、ひと工夫加えることができるのが、良いリーダーだと言えるかもしれません。

同じ口から出る「残業時間を減らせ」と「売り上げを伸ばせ」
 このように、組織のリーダーに求められる決断は、決して簡単ではありません。その場その場で正しい判断を下すことは、容易だとは言いませんが、まだできるかもしれません。本当に難しいのは、一貫性と整合性のある決断です。ある局面で決めたことが、他の局面においても矛盾せず、整合性を保っているということです。

著者プロフィール

緑山草太(ペーンネーム)●みどりやま そうた氏。消化器外科医。1988年、東京の医科大学を卒業。2000年、栃木県の国立病院の外科部長。2004年に再び東京の大学病院に戻り、医局長を務める。

連載の紹介

緑山草太の「僕ら、中間管理職」
良い診療も良い経営も、成否のかぎを握るのは中間管理職。辛くとも楽しいこの職務は、組織の要。「良い結果は健全な組織から生まれる」と話す緑山氏が、健全な組織を作るための上司の心得を紹介します。

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