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エリートサラリーマンが子どもに私立医学部を勧めるワケ

2018/06/12
松原好之

 先日、複数の医系予備校が集まっての合同説明会が行われ、進学塾ビッグバンも質問・相談コーナーを設けたところ、そこに大手銀行にお勤めだという50歳ほどの男性が来られました。

 上に文科系の大学に通う息子さんがいるというその男性の質問内容は、下の娘さんの医学部進路相談でした。中高一貫女子校に通う娘が今度高校2年生になったので、医学部受験をいよいよ本格的に考えなくてはならない、どう勉強対策をしたらよいか、というものでした。

 いわく「兄は文系志望で国立の法学部に行きましたし、私も妻も医学とは無縁の世界で生きてきましたから、私立医学部というと、何億もかかる、寄付金も半端ない、と漠然と思っていたのですが、そうではないんですね。私が務めている銀行の教育ローンを作り直そうということになって、私立医学部の学費を調べて驚きました。一番高いところでも6年間で5000万円はかからないのですね。娘がテレビ番組の影響で医学部に行きたいと言い出したのはそのことを知ったときと同じ頃でした」と。そして「娘には私たちが住んでいる世田谷のマンションから、電車で1時間以内、6年間の総学費が4000万円以下の医学部なら、国公立でも私立でもいいよ、できたら現役がいいけど、本当に医者になりたいんだったら1浪ぐらいまでなら構わないよと伝えています。先生には、そういった方向で、娘の進路相談に乗っていただけないでしょうか」というお話しでした。

 これを聞いて「ああ、こういう時代、すなわち私立医学部を、エリートとは言え一般家庭の子弟が普通に目指そうという時代が来たんだな」としみじみと思いました。

 私が「年収600万、子どもの偏差値40以上なら医学部に入れなさい」(講談社)を刊行したのが2009年のこと。偏差値40より年収600万の方にインパクトがあったらしく、一般家庭でも私立医学部に入れる、ということで少し話題になりました。

 しかし、年収2000万円から2500万円である銀行大手でしかるべき地位についている人が子どもを医学部に入れようとしているのです。

 大手銀行のみならず、全国紙の編集委員とか、大手出版社、大手広告代理店、またトヨタ、キャノンなど、世界のトップ企業の幹部も同額かそれ以上のサラリーを得ているようです。外資だと安定はしないとはいえ、億という年収の人もざらにいるようです。医者ばかり破格の高額所得者というわけではありません。いやむしろ勤務医でその年収の人は稀です。ちなみに、教え子の旧帝大系医学部の准教授(46歳)は、バイトも合わせて額面1400万円ほどだと嘆いてました。しかもエリートサラリーマンは、医者に比べ、いわゆる人命に対する「責任」と言えば医者ほどではないでしょうし、エリートサラリーマンになる方がいいことずくめと言ったら怒られるでしょうか。

 そういう医者以外のいわゆるエリートサラリーマンが、「私立医学部に自分たちの年収でも手が届く」ことを知って、子どもを医学部に入れようとしているのです。ここに少子化の中での医学部人気、ことに私立医学部人気が一向に衰えない理由のひとつがあります。

 なぜ、その人たちがわが子、特に娘を、医者にしたいのか、というと、そうした成功したサラリーマンの方々は、自分たちが、結構過酷な出世競争を勝ち抜いてきたが、そこには他力本願的な“強運”と“引き立ててくれた上司”の存在(これも運のうち)に恵まれたことを知っているからであり、自分の子ども、ましてや娘が同じような“強運”や“引き立ててくれる上司”に恵まれて自分と同じ地位、年収に到達できるかとは考えにくいからだと言います。医者ならば、医師国家試験の免許さえあれば、少なくとも中の上以上の生活は保証される、しかるべき配偶者に恵まれなくても一人でも生きていける、親心としてそう考えている方が少なくないようなのです。

 一方、比較的狭い世界に生きている医者が出会う“たくましいサラリーマン”と言えば、出入りのMRとか医療機械のセールスマンなどです。彼らのたくましさを見るにつけ、どう見てもたくましいとは言えないわが子を持つ医者としては、自分の目の黒いうちに、何としてでもわが子を医者にしたいと思うようです。

著者プロフィール

松原好之(「進学塾ビッグバン」主宰)●まつばらよしゆき。近著に「”逆算式勉強法”なら偏差値40でも医学部に入れます」(講談社)、「9割とれるセンター試験の”逆算式勉強法”」(KADOKAWA中経出版)がある。

連載の紹介

松原好之の「子どもを医学部に入れよう!」
すばる文学賞受賞作家、大手予備校のカリスマ英語教師、そして医系予備校「進学塾ビッグバン」の主宰者である松原好之氏が、医学部受験の最新ノウハウや、中高生・予備校生の子どもとの付き合い方などを指南します。
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(松原好之著、日経メディカル開発、1800円+税)

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