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落合・中日監督の指導と采配をじっくり味わう

2011/11/16

 この原稿を書いている時点で、首位でリーグ戦を終えた中日ドラゴンズはクライマックスシリーズでリーグ2位のヤクルトスワローズを破ってセリーグの覇者となり、日本シリーズでもなかなかの戦いぶりを見せています。

 今年で退任の決まっている落合博満監督に関しては、毀誉褒変さまざまありますが、私は全面的な礼賛者の一人です。

 世に名監督を謳われる監督は多くいますが、落合監督ほどの人物は稀です。組織にまつろわない、また、名誉などもいらないとする一匹狼的なありよう、選手をわが子同様に可愛がる情の深さ、そして、野球を奥深く知り尽くし、それをチームづくりに溶け込ませる力量…。どの点をとっても日本野球界で空前絶後の監督だと言っても過言ではないでしょう。

 私の経営する小さな塾=会社は、仕入れや在庫を気にする業態ではなく、ひたすら、生徒やスタッフの持てる個々の能力を最大限に引き上げて結果を出させることを旨とする業態で、関わるすべての人間の能力、気性、家庭環境などを熟知しないと成立しないようにできています。不遜な言い方ですが、勤務医という名の中間管理職、開業医という名の中小企業経営者の方々にとっても、同僚や部下の医師や看護師など医療スタッフの能力、気性、家庭環境などをどこまで熟知するか、どうモチベーションを上げていくかについては、同じく悩ましいところでもあり、そういった点では落合監督のひそみに倣うべきところも多いかと思います。

「チームのためではなく自分のために」
 落合監督が現役時、当時若手のホームランバッターの代表格でもあった清原和博選手と対談するテレビ番組を見たことがあります。その会話が印象的でした。

 「おい、清原。おまえは誰のために野球をやってるんだ」。大先輩のぶっきらぼうな質問に後輩の清原選手は「チームの優勝を目指してやっています」と公式通りの返答。それに対して落合選手は「嘘つけ。自分のためだろ」と。「野球をやるのはチームのためではなく自分のため」…この誰も口にしない実にシンプルな逆説を当時の落合選手は公共の電波を通じて言い放ったのでした。

 今年のペナントレース途中で落合監督解任が決まった後、むしろ中日ドラゴンズはそれまで以上に快進撃を続け、日本シリーズまでこぎつけるに至って、少々私たちを驚かせたわけですが、これもドラゴンズの選手たちが、正しい意味で徹底して「自分のため」に戦った、すなわちあえて言うなら「落合イズム」を周知徹底させた証左と言えるのではないでしょうか。組織を預かる中間管理職者として、この「組織のためではなく自分のため」なる逆説を堂々と言い放ちそれを「イズム」にまで高める男にこそ、私たちは少年時代以来長らく置き忘れてきた「憧憬」に近い感情さえ抱きます。

 件の清原選手は絶句した後、確か苦笑いをしていましたが、別の報道によると、以来清原は落合を生涯の師と仰ぐようになったということです。

「名球会には決して入らない」と誓った理由
 落合監督はまた執念深い男です。

 新人の時、400勝投手の金田正一から面と向かって「こいつはモノにならん」と言われたことを根に持って、金田氏が当時会長を務めていた「名球会」には決して入らないと心に決め、逆に名球会入会資格が得られる2000本安打以上という記録を目指し、しかもこれを実現したというエピソードを持っています。この執念深さと、それをモチベーションにして目標を達成してしまう実践力は、とりわけ強靱なライバルに対して個人が取り得る最大の武器になります。逆に組織を預かる者にとっては、執念深い人間ほど脅威の存在はありません。

 やくざといわれる集団の脅威も、直接的な暴力の怖さというより、執念深くねちっこいという恐怖によるものです。一般の人間社会はこの恐怖を、うまく相手が「法」に抵触してくれる場合を除けば、「金銭」という手段で取り除くしか方途を持っていません。落合監督が味方にとって頼もしく、敵にとってはこれほど怖い存在はないというのは、おそらく対戦投手の過去の配球の逐一を覚えているといわれるたぐいまれな彼の記憶力を含めた「執念深さ」のせいでしょう。

 荒木遊撃手をして「このまま続いてたら吐いてた」とまで言わしめる、落合監督による今も行われている猛ノック。これは、井端二塁手とのコンビで「アライバ」と称される球史に残る二遊間を築き上げた落合監督の業績の一つです。

著者プロフィール

松原好之(「進学塾ビッグバン」主宰)●まつばらよしゆき。近著に「”逆算式勉強法”なら偏差値40でも医学部に入れます」(講談社)、「9割とれるセンター試験の”逆算式勉強法”」(KADOKAWA中経出版)がある。

連載の紹介

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