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トンデモ医事裁判を支える人々~その2~警察に真相は究明できない

2014/07/25

 来るべき医療事故調査制度(以下、医療事故調)が一体どのように運営されるのか、多くの方が関心を持っているでしょう。

 中でも懸念されるのが、業務上過失致死傷による警察の捜査です。医療事故調が発足すればトンデモ医事裁判が減少するのではないかと期待する向きも一部にあるようですが、そんな楽観を裏付ける根拠はどこにもありません。それどころか、警察に届ける必要のない診療関連死と、医師法21条の「異状死」を混同させる風説を性懲りもなく垂れ流して、トンデモ医事裁判を助長しようとする動きが、ここへ来てむしろ活発になっています1-3)

医療事故検証の難しさ
 一人のスーパードクターが全てを取り仕切るテレビドラマは、今日の現実とはかけ離れたおとぎ話にすぎません。今や、医療現場にもたらされるどんな結末にも、複数のシステムと複数の人間が関わる時代です。1907(明治40)年にできた刑法が規定する業務上過失致死傷で、特定の医師個人にのみ刑事罰を与えることは、真相究明に逆行するばかりでなく、医療事故再発防止や医療安全の向上につながらないことも分かっています3)

 かつて私は、とあるオンブズパーソンの依頼で、証拠保全された診療録を検証して、裁判に持って行くだけの過誤があるのかどうか、あるとしたら、どのようにして悪い結果が生じたのか、意見書としてまとめる活動をしていました。

 患者側に立った組織からの依頼とはいえ、依頼者に迎合して医学的に間違った意見書を書けば、いざ裁判になった時に相手側の反論に耐えられません。ですから、施設や医師個人に対するバイアスを極力排除しようと努めながら、診療録を丹念に読み込む必要がありました。あやふやな点は海外のガイドラインやPubMedで検索した文献を取り寄せて確認し、後で公開されても恥ずかしくないように、症例報告の形で十例以上もの意見書を書き上げましたが、その中でも、一人の医師にのみ過失責任が帰せられる例は一例もありませんでした。それも10年以上前の話です。診療分野のさらなる細分化、ITをはじめとする新技術の導入などにより、今日の医療はさらに複雑化しています。

 専門医である私でさえ、医療事故真相究明のためには、症例報告と全く同様の努力を傾けるのです。解剖学一つ知らない警察官や検察官に、一体何ができるというのでしょう。彼らに医療事故の真相究明能力が全くないことは、私が改めて明らかにするまでもありません。彼らが医学教育を全く受けたことがないことはもちろん、外部専門委員の委嘱制度すら持ち合わせていないことは、公然たる事実です4)。警察によるでたらめな捜査が、真相究明どころか、杜撰な診療体制による医療事故や、臨床研究による事故といった真相を隠蔽してしまったのが「北陵クリニック事件」です5)。以下は、同事件再審請求書で公開されている事実ですから6)、だれでもその内容を確認できます。

著者プロフィール

池田正行(高松少年鑑別所 法務技官・矯正医官)●いけだまさゆき氏。1982年東京医科歯科大学卒。国立精神・神経センター神経研究所、英グラスゴー大ウェルカム研究所、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などを経て、13年4月より現職。

連載の紹介

池田正行の「氾濫する思考停止のワナ」
神経内科医を表看板としつつも、基礎研究、総合内科医、病理解剖医、PMDA審査員などさまざまな角度から医療に接してきた「マッシー池田」氏。そんな池田氏が、物事の見え方は見る角度で変わることを示していきます。

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