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GCP万能主義と厚労省依存症

2013/12/27
池田 正行

 産官学共同の先進国として、利益相反スキャンダルの“大先輩”でもある米国で作成された「利益相反管理ガイドライン1)は400ページ以上にも渡ります。しかしその中にGCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準)という言葉は一度も出てきません。

GCPは万病に効く薬ではない
 一方、わが国独自のスキャンダルであるバルサルタン問題をめぐるメディアスクラム2)の中から、刑事責任追及とともに聞こえてくるのが、「GCPこそが、すべての臨床研究の不正を駆逐するための最良の手段である」との声です。このようなGCP万能主義は、お上におすがりして研究の質まで担保してもらおうとする厚生労働省依存症の表れです。

 厚労省依存症患者たちは「厚労省様、どうか強くなって悪徳研究者達や製薬企業をやっつけてください」と願っています。GCP万能主義が厚労省益に直結しているのはこのためです。つまり、すべての臨床研究にGCPを適用すれば、厚労省には莫大な規制利権が転がり込み、財務省に対して堂々と予算を要求できるというわけです。

 医薬品と同様に、規制は必ずリスクを伴いますから、そのリスク・ベネフィットバランスが最適となるように、対象に対して特化させる必要があります。GCPは自社製品を市場に出して利潤を生み出すことを使命とする製薬企業の臨床開発と承認申請に特化した規制であり、製薬企業はGCPに対応できるだけの資金・人員配置・ノウハウを所有し、GCP対応にかかった費用は必要経費として控除できます。医薬品のリスク・ベネフィットバランスを少しでも勉強したことがある人ならば、株式会社の活動に特化した規制をそのまま学校法人に適用することの危険性はすぐに理解できるはずです。

正直者がばかを見る世界に
 GCPは、その負荷に耐えられる臨床研究を選択的に残し、そうでない研究を排除します。企業からの支援が得られる研究とそうでない研究のどちらがGCPに耐える体力があるでしょうか?そしてどちらがより質の高い研究でしょうか?答えは自ずと明らかです。

 UCAS Japan(N Engl J Med. 2012;366:2474-82.)、JPAD(JAMA. 2008;300:2134-41.)、培養口腔粘膜上皮細胞シートによる角膜再生治療(N Engl J Med. 2004;351:1187-96.)、意識障害診断に対する血圧の診断介入研究(BMJ. 2002;325:800.)。日本が世界に誇るこれらの臨床研究は、すべて非GCP下で行われました。GCPが強いる膨大な人件費、労力、書類の山にさらされていれば、いずれも日の目を見なかった研究です。

 本来ならばバルサルタン問題は、悪貨が良貨を駆逐する状態だった日本の臨床研究環境を改善する好機を与えてくれるはずです。しかしGCP万能主義が目指すところは、全く逆に、乏しい公的資金で地道に進めている独創性の高い研究が真っ先に潰される、正直者が馬鹿を見る世界なのです。

著者プロフィール

池田正行(高松少年鑑別所 法務技官・矯正医官)●いけだまさゆき氏。1982年東京医科歯科大学卒。国立精神・神経センター神経研究所、英グラスゴー大ウェルカム研究所、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などを経て、13年4月より現職。

連載の紹介

池田正行の「氾濫する思考停止のワナ」
神経内科医を表看板としつつも、基礎研究、総合内科医、病理解剖医、PMDA審査員などさまざまな角度から医療に接してきた「マッシー池田」氏。そんな池田氏が、物事の見え方は見る角度で変わることを示していきます。

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