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病・障害の経験を成長の糧に
~吃音障害を抱えた医学生への手紙から~

2013/03/25

 「大病をしたことがない医師は患者の気持ちが理解できない」。若い時に結核を患って長期の療養生活を強いられた経験のあるドイツ語講師からそう聞いたのは、大学1年の時でした。

 当時の私は、「患者の気持ちを理解することの大切さは分かるが、医師が不養生してわざわざ重い病気にかかるわけにはいかないだろう。それにそもそも医師は健康でなければ、患者を診療できないじゃないか」と心の中で反発したものでした。

 それから20年経ち、自分自身が花粉症に悩まされるようになってようやく、花粉症患者さんの訴えにはより深く共感しながら耳を傾けるようになりました。そしてさらに十余年、ドイツ語の先生と同じほどの年齢になった今、かつての反発心は消え、「医者だって病気になる。だったらその機会を診療にどう生かせばいいだろうか」と考えるようになりました。

病や障害を通じた相互教育のススメ

 医師は患者が発する言葉から、病気の歴史を学びます。これが問診・病歴聴取です。また、患者が発する「非言語的メッセージ」から、病気の状態を学びます。これが診察です。こうした“学び”のプロセスは、初診時だけでなく治療が始まった後でも、治療の効果や副作用を観察するために、外来で、病棟で、何度となく繰り返されます。

 このプロセスにおいて、医師は患者から学ぶ“学習者”です。一方、患者は自分の病・障害を教材として医師を教育するという、崇高な使命を帯びた“教育者”であると同時に、病を得て自らも成長していく貪欲な“学習者”でもあります。決して、みじめな病人ではありません。このような相互教育は、必ずしも医師と患者の関係ではなくても、また、相手の抱えているものが病気ではなく障害であっても、成り立ちます。

 以前、ある外来診療の勉強会で司会をしてくれた医学部5年生が、軽い吃音障害を抱えていました。勉強会の合間の短い休憩時間に、彼と「吃音障害を診療の邪魔者と決めつけてしまうのはもったいない。吃音障害をどうやって生かして医師として成長していくかを考えようよ」という話をしました。勉強会後に、彼に宛てて書いた手紙を紹介します。


著者プロフィール

池田正行(高松少年鑑別所 法務技官・矯正医官)●いけだまさゆき氏。1982年東京医科歯科大学卒。国立精神・神経センター神経研究所、英グラスゴー大ウェルカム研究所、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などを経て、13年4月より現職。

連載の紹介

池田正行の「氾濫する思考停止のワナ」
神経内科医を表看板としつつも、基礎研究、総合内科医、病理解剖医、PMDA審査員などさまざまな角度から医療に接してきた「マッシー池田」氏。そんな池田氏が、物事の見え方は見る角度で変わることを示していきます。

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