昨年に引き続き、今年の6月にもNHKの症例検討会風の番組「総合診療医 ドクターG」に、出題者の立場で出演しました。よく「なぜ池田先生に声がかかったのですか」と尋ねられるのですが、それは私が行ってきたユニークな教育活動を知ったこの番組の監修の先生が、私をプロデューサーに推薦してくださったからです。
その教育活動、すなわち、“外来診療ライブ公演活動”を始めたのは2003年7月。47歳で新潟の国立病院から厚生労働省に転じ、それ以降の医師として成長していく喜びをどこに求めるのか、大いに悩んでいた時のことでした。
「診療・教育する側が出向く」という発想
40代も半ばを過ぎれば、周囲の誰も意識して自分を教育してくれません。となると、成長できる唯一の機会は、学生や研修医を含めた若い人たちとの議論となります。若い人たちの疑問に対して説明責任を果たし、その一方で彼らが呈示する発想に、自分が突き当たった問題への回答を見いだす。それが中年以降の医師の成長戦略です。
とはいえ、なにせ厚労省の役人で、しかも卒後20年たっても大学教官の経験がない私が、平日に大学や市中病院で教えるわけにはいきませんでした。必然的に週末や休日を利用して、私が患者さんのいる現場へ出向いて診療し、その場面で若い人たちとの接点を求めることになりました。
自分の外来診療をライブで見てもらい、自分の頭の中身まで公開し、若い人に批評してもらえれば自分の外来診療の質も格段に向上するに違いない-。47歳の厚労省役人による外来診療ライブ公演活動が始まった背景には、このような発想があったのです。
それ以来、神経内科医必携の愛用のハンマーを小脇に抱えた私と患者さんとの掛け合いが売り物の“公演”が口コミで評判になり、学生や研修医からお呼びがかかるままに足かけ10年、旅費だけを負担していただきながら、今日まで全国を飛び回ってきました。
以前も紹介しましたが、私のこのような活動は“公演”と呼んでいます(参考記事:2012.3.30 「続・幸せな気分になれる臨床研究のススメ」)。2002年、新潟県のある大学で牛海綿状脳症(いわゆる狂牛病)について講演した時、学生さんが作ってくれたポスターが「池田正行先生公演」となっていたのがその始まりです。大学側は字の誤りに恐縮していましたが、ワクワクしたいという参加者の期待に応えたいという思いから、それ以来、私は「公演」との呼称を使っています。
“公演”の回数は、多い年で25回。1年52週の半分の週末を公演に費やしたこともありました。今でも月に一度は全国のどこかしらへ出かけています。
内科にも求められていた“大盤解説”
私の思いはともかくとして、若い人たちは何が面白くて厚労省のオジサンを呼んでくれたのでしょうか?
囲碁や将棋に興味がなくても、対局者ではない人が大きな盤面の横で、指し手の意図を解説する「大盤解説」の光景は目にしたことがあるでしょう。本番の対局者の頭の中を、第三者のプロ棋士がリアルタイムで解説してくれるのですから、有名なタイトル戦の大盤解説には、日本中のファンが注目します。囲碁や将棋のような趣味でさえ、プロがどう考え、どういう行動に出るのか、必死で学ぼうとする人がいるのです。それを思えば、人命がかかる臨床で、“大盤解説”を欲する人がいるのは当然でしょう。
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著者プロフィール
池田正行(高松少年鑑別所 法務技官・矯正医官)●いけだまさゆき氏。1982年東京医科歯科大学卒。国立精神・神経センター神経研究所、英グラスゴー大ウェルカム研究所、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などを経て、13年4月より現職。

連載の紹介
池田正行の「氾濫する思考停止のワナ」
神経内科医を表看板としつつも、基礎研究、総合内科医、病理解剖医、PMDA審査員などさまざまな角度から医療に接してきた「マッシー池田」氏。そんな池田氏が、物事の見え方は見る角度で変わることを示していきます。
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