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続・幸せな気分になれる臨床研究のススメ

2012/03/30

 前回のコラムを読んだ方から「日本の基礎研究論文シェアが世界トップクラスである背景の考察は書いてあるが、臨床研究が進まない理由についての言及がない」という鋭いツッコミをいただきました。その理由こそ、まさに私が皆さんに一番伝えたかったことですので、ちゃんとお話いたします。

 未来の医療の担い手である若い人たちに、幸せな気分で臨床研究をしてもらうために一番説得力のある方法は、実例を示すことです。もちろん、日本にも立派な臨床研究をしている人はたくさんいます。ところが理由は分からないのですが、幸せそうな研究者が少ない。これでは後に続く人が出てこないのは当然です。「日本で臨床研究が進まない理由」は、ここにあるのではないでしょうか。

 少なくとも私自身は幸せな気分で臨床研究を行っていますし、そのことを示すことで臨床研究ができる若い人をどんどん増やしたいと思っています。

臨床研究への思い入れは自分の研究から
 臨床研究への私の思い入れの原点は、前回も紹介した、BMJに掲載された自分の研究1)です。意識障害における血圧の診断的意義について考察したこの研究は、日常診療で集めるデータそのままをまとめたもの。ですから研究費どころか、プロトコールを改めて用意する必要さえありませんでしたし、特別な機器も不要でした。意識障害の患者さんがいて、血圧計さえあれば、世界中のどこでも、そして誰でもできる研究だったのです。

 その研究成果は、世界中のどこでも誰にでも役立つものです。「意識障害の患者で収縮期血圧が高い場合、脳に原因がある可能性が高い」と学んだことがある人でも、それが私の研究の結果だと気が付いている方はほとんどいないでしょう。それだけ私の研究成果は普遍的になっています。

 ニューヨークにあるベス・イスラエル病院で働いていた、ある日本人呼吸器内科フェローと初めて会った時のこと。共通の知人を交えて話が弾む中、たまたま意識障害の診断が話題になったところ、「そういえば、血圧を測ることで意識障害患者の頭蓋内病変を推測する、という、とても面白い論文を病院の抄読会で先日紹介した」と彼が切り出しました。知人が「その論文の著者は目の前にいる」と告げた時の、彼の驚いた顔が今でも目に浮かびます。

 この論文発表の翌年となる2003年から、私は医薬品医療機器総合機構PMDA)で勤務するようになりました。臨床現場から遠く離れていると思われているPMDAで働くことで、私の臨床研究への思いは、より強くなりました。

 薬事法に基づく治験は、いわば最も厳しく吟味される臨床研究です。プロトコールやデータを徹底的に吟味するPMDAは、臨床研究の何たるかを学ぶための最高の国内留学先でした。しかも各分野の超一流の専門家たちが歩いて数十歩のところにいて、いつでも相談に乗ってくれる-。

 「そんな夢のような環境で学んだ成果を自分で独り占めしているだけではもったいない」。新薬審査の経験を生かして、若い人たちと一緒に楽しく臨床研究をしたいという思いが一層強くなりました。

著者プロフィール

池田正行(高松少年鑑別所 法務技官・矯正医官)●いけだまさゆき氏。1982年東京医科歯科大学卒。国立精神・神経センター神経研究所、英グラスゴー大ウェルカム研究所、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などを経て、13年4月より現職。

連載の紹介

池田正行の「氾濫する思考停止のワナ」
神経内科医を表看板としつつも、基礎研究、総合内科医、病理解剖医、PMDA審査員などさまざまな角度から医療に接してきた「マッシー池田」氏。そんな池田氏が、物事の見え方は見る角度で変わることを示していきます。

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