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幸せな気分になれる臨床研究のススメ

2012/02/07

 某病院の総合診療部長に私が共同臨床研究を提案したときのこと。彼は「飯を食う暇さえないのに…」とため息をつきながら、出かかった言葉を辛うじて飲み込みました。"臨床研究なんて悠長なこと、やってられません"とでも言いたげな表情でした。

 出身医局の後輩であり、その優秀さと教育熱心さは、私もよく知っている人物です。ですから私も「寝食を忘れて臨床研究に没頭したいとは思わない?」との挑発はしませんでした。優秀な彼が相手ならば、議論に時間を費やすよりも、実例を見せて納得してもらう方が早道だと思ったからです。

 私が医者になった30年前どころか、そのはるか昔から、トップジャーナルに掲載される日本の臨床研究論文数は、他の先進国に比べて極端に少ないといわれており1)、近年、さらに減っていると指摘されています2)

 「日本で臨床研究が振るわないのは、臨床医の過酷な労働環境、研究費不足、人材不足といった構造的原因ゆえであり、責任はひとえに国にある」。そういった陳腐な議論もまた、私が医者になった30年前よりもはるか以前から、延々と繰り返されてきました。

 ですが、他の国に比べて日本が特異なのは、臨床研究論文数が18位なのに対して、基礎研究論文では3位と極端な乖離(かいり)を示していることです。臨床研究環境と同様、日本の基礎研究環境は欧米諸国に比して決して有利とは言えません。では、この乖離の原因は、そして基礎研究論文シェア世界第3位を支えているのは、一体何なのでしょうか?

医師が研究を行う理由
 基礎にせよ、臨床にせよ、そもそも医師はなぜ研究するのでしょうか? 研究費を取ってくるのは、自分の好きな研究を続けたいからではないでしょうか。教授のポストが欲しいから、という人もいるかもしれません。ですが、めでたく(?)教授になっても、今やお金も利権も手に入らずに、雑務が増えるだけなのは、ご承知の通りです。

 インパクトファクターを稼いで研究費を確保し、ポストを取るのは研究の手段です。言い換えれば代用エンドポイントにすぎないのであって、研究の目的、すなわち真のエンドポイントではありません。ちょうど、LDLコレステロールの低下が、あくまでスタチン服用の代用エンドポイントにすぎないのと同じように。

 では真のエンドポイントは何か。研究者が自分の好きな研究を続けたいと思うのは、“幸せな気分(※)”になりたいから。私はそのように考えています。読者の皆さんの中にも、ワクワクしながら基礎研究をした経験のある方も多いでしょう。私も同様です。悪戦苦闘を重ねた自分の研究成果が、何の面識もないレフェリーや編集者に認められ、初めての英語論文3)として世に出たときの喜びは、四半世紀近くたった今でも忘れられません。ましてトップジャーナルを常に狙うような基礎研究者は、常に自分の研究に誇りと情熱を持っているはずです。

著者プロフィール

池田正行(高松少年鑑別所 法務技官・矯正医官)●いけだまさゆき氏。1982年東京医科歯科大学卒。国立精神・神経センター神経研究所、英グラスゴー大ウェルカム研究所、PMDA(医薬品医療機器総合機構)などを経て、13年4月より現職。

連載の紹介

池田正行の「氾濫する思考停止のワナ」
神経内科医を表看板としつつも、基礎研究、総合内科医、病理解剖医、PMDA審査員などさまざまな角度から医療に接してきた「マッシー池田」氏。そんな池田氏が、物事の見え方は見る角度で変わることを示していきます。

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