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乳癌のリスクは予測できるか

2006/12/20

 Breast Cancer Risk Assessment Tool(乳癌リスク評価ツール)というものがある。乳癌リスク計算ができると聞けば、数字で示されるため、何となくその数字が個々人の確定的なリスクであるかのごとく、一人歩きしてしまう。それを乳癌治療の方針決定(decision making)にまで使うことが、まま行われているように思う。果たして、それで本当にいいのだろうか。

◆The Risk of Cancer Risk Prediction: "What Is My Risk of Getting Breast Cancer?".Journal of the National Cancer Institute.2006;98:1673-1675.

最もよく知られているGail modelの乳癌診断予測モデルでは、年齢、人種、初経、初回生下出産、乳癌を有する第一度近親者(first-degree relatives)、以前の乳房生検数、生検によるatypical hyperplasiaの存在が、予測に関連する因子である。

このモデルは、5年以内と生涯(90歳まで)の女性の乳癌診断尤度を予測するもので、これを含め、類似の推定モデルは既にインターネットでも利用可能である。
Memorial Sloan-Kettering Cancer Center. Prediction tools:lung cancer risk assessment
University of Texas Southwestern Medical Center at Dallas

NCIウェブサイトのGail modelの閲覧数は、月2万~3万回に上るとのこと。

では個々人にこうした予測モデルを適用することがなぜ難しいか。
多くの状況で、統計的に一致率が0.66というのは、個々のdecision makingをするにはあまりに低い数字である。
・現在のモデルのリスク要因は人口全体を通して見たものであり、個々人への感度・特異性に優れたものではない。
・加えて、リスク要因は、約200に1つのリスクなどといった、検診時に価値のあるものであり、検診に強く関連のあるものである。それをそのまま個々のケースでも同様であるとしている前提に問題がある。
・多くのリスク要因は、乳癌に関するリスクとしては比較的弱く、たとえ「強い」リスク要因である年齢、マンモグラフィーの陰影、放射線被曝でさえ相対リスク10未満である(BRCA1変異若年女性は例外)。

 人口全体で見た場合には良好な予測因子でも、個々の予測ではその有用性は発揮できない。インターネットで入手でき、有益な情報であるとしても、その解釈には注意が必要である。個々の女性に対して、正確に乳癌になると予測できるわけではない。個々人のリスクを予測するには、まだまだ多くの研究が必要なのである。

著者プロフィール

牧瀬洋一(牧瀬内科クリニック院長)●まきせ よういち氏。1984年鹿児島大卒後、同大第一内科入局。大隅鹿屋病院などを経て、95年牧瀬内科クリニック(鹿児島県大崎町)開業。98年に有床診化(19床)。

連載の紹介

牧瀬洋一の「内科開業医のお勉強日記」
内科開業医として、呼吸器を中心に地域の患者を幅広く診察している牧瀬氏。JAMA、Lancet、NEJM、BMJをはじめ、主要論文誌をインターネットで読むのが日課。興味を引かれた論文を、牧瀬氏が紹介します。

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