「寄生虫がいるとアレルギーになりにくい」という話を以前はよく見聞きした。特定の仮説を支持する学者の意見がメディアで取り上げられ、その反論が一般に知らされることなく、いつのまにか常識化してしまう代表的事例ではないかと思う(「藤田紘一郎先生の寄生虫とヒトの共生の考え」)。この寄生虫に関する仮説は、論文を検索すれば、衛生仮説のメーンストリームではなく、ごく一分野にすぎない。
寄生虫を「古くからの友人」(人間と共存している微生物たち)として、感染と隔する観点から観察し得るという考え方がある。これは寄生虫だけでなく、細菌、ウィルスなども対象で、特に細菌のエンドトキシン、室内中の濃度測定などが検討されているようである。もともと衛生仮説(Hygiene hypothesis)は、まず寄生虫ありきではなく、Strachan(1989)らの、学童での花粉症・湿疹の疫学研究がオリジナルとされ、兄弟が多いほど感染症が多く、結果的にそれがアレルギー疾患減少へとつながるという仮説である。生下時はTh2が優位であり、Th1/Th2サイトカイン・バランスの崩れがアレルギー疾患の素因となるのではないかという仮説へと進展しているのである。
また、「衛生」の定義あるいは研究項目によっては、その概念だけが一人歩きして、根拠なきプロバイオティクス販売や反ワクチングループに利用されている場合もある。
研究対象・方法に関するあいまいさを除去するために、ガイドラインを設けようという動きがある。その内容の一例は、「前向きである」「アトピー疾患減少を証明」「アレルギー感作・アトピー減少を証明」「合理的な別の解釈ができるものは駄目」「生後2年の時期における免疫刺激を対象としたもの」「主な免疫刺激の対象がTh1」「Th2、Th1/Th2、免疫応答減少に関するエビデンスであること」である(The Internet Journal of Asthma, Allergy and Immunology.2005;3(2).)。
今回、腸内の寄生虫感染に関するシステマティックレビュー・メタアナリシスの発表があった。
◆Asthma and Current Intestinal Parasite Infection Systematic Review and Meta-Analysis.American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine.2006;174:514-523.
寄生虫感染は、小さな、非有意な喘息リスク増加(相対リスク 1.24、95%信頼区間 0.98~1.57、29の研究)
種別解析では、回虫で有意な喘息増加(相対リスク 1.34、95%信頼区間 1.05~1.71、20の研究)
鉤虫で、有意な大きなリスク減少(相対リスク 0.50、95%信頼区間 0.28~0.98、9の研究)、infection intensityと相関(p<0.001 : 3分位による比較)
他の種類では有意な影響はなかった。