
写真1 雪で真っ白のボストンの市街地
皆様、いかがお過ごしでしょうか。ボストンでは3月から4月にかけてもしばしば降雪が見られます(写真1)。夏季は涼しくとても住みやすい土地なのですが、冬季は厳しい環境です。
さて今回は、ここアメリカを中心に発展した「お腹を開きっぱなしにする治療法」の紹介です。私が得意とする治療法の一つでもあり、自らの経験も踏まえてお話ししたいと思います。
なぜ、開きっぱなしにするのか
お腹を開きっぱなしにする治療法というと、何か得体の知れないあやしげな印象を持たれるかもしれません。実際には、腹壁を開けたまま腸管が常に見えている状態にしておくことを指します。医学的には腹部開放管理(open abdominal management;OAM)と呼ばれます。これを施行する目的は、主に重症外傷に対するダメージコントロール戦略か、腹部コンパートメント症候群の治療です。
約30年前からアメリカを中心に始められた治療法で、現在では本邦でも広く用いられています[1]。OAM施行に関する日本全国の詳細なデータは今のところありませんが、2015年に近畿地方の8つの救命救急センターで2年間に成人患者に施行されたOAMは99例だったと報告されています[2]。なお、この報告では来院して48時間以内に死亡したOAM症例は除外されているので、実数はもう少し多いと思われます。
重症外傷手術では、ダメージコントロールとして複数回手術したり、ガーゼパッキング(ガーゼ圧迫留置)で腹腔内圧を下げたりするにあたってOAMを施行します。腹腔内圧が上がると、腹部コンパートメント症候群を引き起こして腸管壊死などにつながりかねません。腹部コンパートメント症候群は致死的である(死亡率が50%ともされる)ため、その予防となるOAMは非常に重要なのです[3]。
しかしながら、OAMにはメリットだけでなく問題点もあります。開放された腹部から水分やタンパク質が腹水として漏れ出すため、輸液バランスや栄養状態の慎重な管理が必要になります[1]。また、血管や神経が露出した状態でのOAMは、時にそれらの損傷につながるため推奨されておらず、できるだけ軟部組織で被覆してから実施した方がよいとされています。
手技が簡易で管理もしやすいVAC法が主流
OAMの管理には様々な方法がありますが、近年はvacuum assisted closure(VAC法)が選択されることが多いです。VAC法は腹壁コンプライアンス(「腹部の柔らかさ」のことで、低下した場合は先述の腹部コンパートメント症候群を引き起こしたり、呼吸に悪影響を及ぼしたりすることがある)を低下させず、また閉鎖式の排液ドレーンから確実に排液管理ができるため、低体温を防ぐことができる管理方法です[3]。簡易に実施でき、管理もしやすいため、私は常にVAC法でOAMを行っています。
個人的な経験では、過去に鉗子を用いてtowel clip closureを行ったこともありますが、手術後のIVR(血管内治療)による止血時に、鉗子が透視撮影の邪魔となって以来、超緊急時以外は選択しないようにしています。しかしながら、戦地や医療資源の乏しい国では、輸液バッグを利用したBogota Bagやtowel clip closureなどもいまだに選択されています。