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敗血症治療の現在地

2016/04/14
近藤豊

筆者勤務先の救急外来。アメリカでも多くの敗血症患者が運ばれてくる。

 敗血症の患者は世界で年間約2700万人。そのうち約800万人が死亡していると言われており、その予防や治療は非常に重要です。日本では一般向けに、Global Sepsis Alliance Japanという団体が敗血症の啓蒙に努めています[1]。

 敗血症の治療方法には確立されていない部分が多く、日本とアメリカで治療方針が異なる部分もあります。今回は、私が得意とする分野の一つである敗血症について、主観的な視点を交えながら世界のトレンドを見ていきたいと思います。

新たな治療方法の模索
 敗血症について私が最初に深く考えたのは、2008年頃、エンドトキシンに競合して働くエリトラン(開発コードE5564)という日米欧で開発された治験薬の話を聞いたときでした。それまでは一般的な臨床医の知識をもとに敗血症の治療をしてきましたが、治験薬の話を理解するために、薬剤のメカニズムから考える必要があったわけです。

 エリトランは人工合成されたリポ多糖(LPS)誘導体であり、TLR4(toll-like receptor 4)と結合してその活性を抑制します。TLRに結合するにもかかわらず生物活性を示さないのは、エリトランの基本構造の脂肪酸の数が少ないことによります。ヒトの生体内でTLR4を阻害するとどうなるのか強く興味を引かれましたが、残念ながら2013年にJAMA(Journal of the American Medical Association)誌で発表されたACCESS studyの結果では、28日死亡率を改善せずということで、日の目を見ずに開発中止となりました[2]。

 この研究以降、エンドトキシンとTLR4の研究を臨床応用する試みには一区切り付いたのではないかと、私は考えるようになりました。もっと根本的な治療方法の開発、あるいは別のTLRの役割を追究する方が敗血症治療にとって有効なのかもしれません。

 敗血症の予後は原因菌の種類によっても変わります。アメリカの報告では、重症敗血症患者の大規模データベースを用いて起炎菌ごとに予後(死亡率)を解析しています[3]。その結果、グラム陰性桿菌が51.5%、グラム陽性球菌が45.6%、嫌気性菌が1.7%、真菌が1.2%でした。そのうち、グラム陰性桿菌では緑膿菌による敗血症が最も死亡率が高く、29.5%。グラム陽性球菌では黄色ブドウ球菌による敗血症が最も高く、30.9%となっています。また、グラム陰性菌の中でもフラジェリンflagellin)を持つ細菌による死亡率がとりわけ高く、血中フラジェリン濃度が死亡率や急性肺障害の重症度と相関することも分かっています[4]。そのため、私はフラジェリン自体が敗血症に関連して何らかの重要な働きを担っており、そのメカニズムを解明することは新たな治療薬の開発につながる可能性があるのではないかと考えています。

日米における敗血症治療の違い
 日米の敗血症に対する治療方針の違いとして、免疫グロブリン使用、播種性血管内凝固症候群DIC)治療、エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)が挙げられます。これらの治療は日本では行われますが、アメリカの臨床現場ではあまり行われていません。私の所属する病院でもそうです。基本的なスタンスとして、治療の有意性が明らかでなければ行わないということでしょう。

 敗血症治療における一番の問題点は、使用する薬剤の効果判定が難しいところです。この効果判定に当たって、もちろん生存率は一番の指標となりますが、その他にAPACHE IIスコア、SOFAsequential organ failure assessment)スコアなどが用いられています。日本の敗血症治療はアメリカよりもチャレンジングで、大きな壁を乗り越えようとする姿勢は高く評価できると思います。ただ、長期間を経ても効果や予後の改善が証明できないとすれば、キッパリと諦めて、別の薬剤を開発する方向へ転換して将来に再チャレンジする、未来思考の考え方も必要なのかなと思っています。

著者プロフィール

近藤 豊

ハーバード大学医学部外科学講座リサーチフェロー

2006年琉球大学卒業。初期研修を沖縄県立中部病院、後期研修を聖路加国際病院で修了。その後、琉球大学大学院へ進学し、救急医学講座講師や附属病院救急部副部長を兼任しながら修了した。救急科専門医、外科専門医。外傷や敗血症を得意分野とする。敗血症やARDSなど救急分野の様々な診療ガイドライン作成を担う。将来は臨床と研究を融合しながら救急医学を追究したいと考えている。趣味は散歩とコーヒー。

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