○月×日、いつもより1時間早く出勤。来年度(10月以降)の契約交渉に望むためだ。私の場合、給料は年俸制。毎年春から夏にかけて、プロ野球選手の契約更改のように、病院と面談・交渉をする。今日ばかりは、スーツに袖を通した大リーガーの気分だ。
私が勤務するのは地域の小規模な病院のため、病院最高責任者との直接交渉になる。過去1年間の診療業績が良好なら、その度合いに応じてボーナスも出る。アメリカでは主流の方式だ。
病院の最高経営責任者メーガン女史と、彼女の右腕であるクリニックマネージャーのジュリーが、会議室で既に待っている。握手を交わして着席。普段と違って全員緊張しているのがよく分かる。今年度の売上などが記された資料を渡され、ひとまずそれをじっと眺める。そして、来年度の契約内容が提示された…。
最初の契約で、言われるままにサインしてみたら…
皆さんは現在勤務している病院において、または次に勤務することになる病院との間で、どのように給料の交渉をしますか? と聞いてはみたものの、交渉のやり方を教えてくれる人はそもそもいないでしょう。そこは日本でもアメリカでも同じだと思います。
私はと言えば、レジデンシーの最終年時に現在の勤務先から契約書を提示された際、ほとんど何も交渉することなくサインしてしまいました。通常、契約書の内容にはサイン・オン・ボーナス(契約金)、契約年数、年棒、出来高報酬、休暇日数、当直回数などが含まれています。さらには年金プラン、医師賠償責任保険の種類・補償額なども含まれ、同僚の中には数十ページに及ぶ契約書を提示された人もいました。
私の契約は、後に研修仲間と比較してだいぶ不利な条件だったことが分かり、たいそう落ち込んだことを覚えています。年棒額自体にはあまり違いはなかったのですが、契約金や当直回数など加味すると、全体の待遇として同僚とはかなり差があったのです。
そうした苦い経験もベースとなって培った、私の年俸交渉のセオリーを今回は披露します。
あなたの値段はいくら?
給料アップを目指して交渉するとき、まず考えなくてはならないのは「自分の価値はいくらか?」ということです。この価値は、市場において相対的に決まってくるものと言えるでしょう。
アメリカにはMGMA(Medical Group Management Association)医師収入レポートというものが存在します。MGMAは毎年、医師の報酬などに関する調査を行っており、そのデータをレポートとして公表しています(データの利用は有料)。このデータを利用すれば、自分の診療科の平均年収などを知ることができる上、診療地域や年齢、勤務体制、当直の有無などによる報酬の違いも確認することができます。家庭医療科のように女性やパートタイムの医師が多い診療科など、平均年収よりは年収の中央値を参照したほうがよい部門もあります。
同期や同僚からのリサーチも重要で、自分のネットワークを駆使して給料および他の待遇に関して情報収集します。可能であれば、自分の売上や勤務する病院の経営状態なども調べておきます。これらの情報を参照して、自分が妥当だと思う金額を算出するのです。
要求金額は高値から始めるべし
給料交渉は自分の今後1年間(または数年間)の生活にかかわることなので、準備はしっかりと行う必要があります。交渉相手はビジネスのプロフェッショナルであることが多く、少なくとも数週間前からは準備を進めたいものです。
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著者プロフィール
萩原 裕也
サウスダコタ大学家庭医療科アシスタント・プロフェッサー
2004年、山梨大卒。在学中にECFMGを取得し、卒業と同時に渡米。ミシガン州立大学の関連病院で家庭医療研修を開始。06年よりチーフレジデント。07年Pioneer Memorial Hospitalスタッフ。08年から同クリニック院長とサウスダコタ大学スタッフを兼任。アメリカ家庭医療学専門医、ホスピス・緩和医療専門医。趣味は、釣り、スキー、筋トレ、テニス。
萩原 万里子
サウスダコタ大学内科レジデント
2004年、山梨大卒。卒業と同時に結婚し、夫の裕也氏をサポートすべく共に渡米。アメリカで2児を出産し、主婦生活を満喫しつつ5年間の育児休業(?)を堪能。10年6月より現職。特技・趣味は、フランス語、料理、買い物、旅行。

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