
医療ビルの玄関に掲げた当クリニックの看板です。
前回は被保険者側から見たドイツの医療保険制度について紹介しました。私たち診療側の視点から見ても、ドイツの医療保険制度にはいくつかの特徴があります。
ノートラインの家庭医の請求上限は30ユーロ(患者1人1四半期当たり)
第1の特徴は、1980~90年代にかけて導入された治療費定額制です。疾患ごとに入院治療費が決まっているため、最も効果的で費用が安い治療法を選ばざるを得ません。ちなみに私が旅先で余儀なくされた(前回参照)虫垂炎の手術では、入院3日までの診療費は疾病金庫(Krankenkasse)から病院に支払われます。それよりも退院が延びた場合は、特別な理由がない限り、超過分は病院側が負担することになります。
開業している家庭医では、受け持ちの公的医療保険患者数がおおよそで決められ、その全体に対して処方できる薬の上限額も四半期当たりの予算(バジェット)として決められています。例えば、受け持ち公的医療保険患者が600人程度と設定されている開業医は約5000ユーロと「推定」されます。この額は四半期ごとに若干変わり、前もって知ることはできません。バジェットを超えると診療側の負担となります。
この制限は過剰処方の抑制やジェネリック薬の市場拡大を後押ししています。ジェネリック薬のメーカーを指定する大手疾病金庫もあります。ただし、高額な薬剤でも、2カ所の専門医(たいていは大学病院)に必要性を認められた場合には、例外的にバジェット外の扱いとなります(例えば、肺高血圧症に対するシルデナフィル)。
さらに、私のクリニックがあるデュッセルドルフが属するノートライン地域の場合、診療科としての家庭医が公的医療保険患者1人当たりに請求できる診療報酬の上限は、診察回数にかかわらず四半期当たり30ユーロと、かなり低い額に制限されています。なお、ノートライン地域ではこの上限とは別に、3カ月に1度の呼吸機能検査(1ユーロ)、3カ月に1度の腹部超音波検査(3ユーロ)、年1回のインフルエンザ予防接種、10年ごとの破傷風予防接種については請求でき、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患についても1疾患当たり8ユーロを上乗せできます。