前回のリポートでは、アメリカの医師の需給予測をテーマとして、各州政府、医学会、シンクタンクなどが自主的に研究を行っており、100以上のリポートが発表されていることを紹介しました。それらのリポートの中でも、アメリカ医科大学協会(Association of American Medical Colleges;AAMC)の「2025年には12.4万人の医師が不足する」という報告はインパクトがありました。
日本語で言う「労働力」に当たる用語として、従来は“manpower”が用いられてきましたが、近年では“workforce”という語が用いられています。この“workforce”という語を用いてPubMedなどを検索するか、参考文献[1]のリストをご覧いただければ、多くの報告を参照していただけるかと思います。
医師供給の偏りと職業選択の自由
アメリカでの医師の供給には偏りがあり、プライマリケア医の不足やUnderserved Area(医療過疎地〔筆者訳〕)での医師不足が顕在化しています。しかし、こうした状況に対して、医学生が専門分野や勤務地を選ぶことを制限しようという動きは出てきていません。実際、COGME(Council on Graduate Medical Education)は「ジェネラリストとスペシャリストの割合は需要に基づいて決められるべきであり、COGMEはその比率の目標を設定しない」とリポートで述べています[2]。AAMCも「個々の医学生や医師は、自身の専門分野を選ぶ際に制限されるべきでない。同様に教育病院は、開設できる教育プログラムを自由に選べるべきだ」と述べています[3]。このように言い切れる裏には、医療過疎地の医療を外国人医師に依存するという、アメリカ特有の事情があります。
移民の国アメリカ―外国医科大学卒業生の流入
移民の国アメリカでは、医師の労働力のかなりの部分をInternational Medical Graduate(IMG)と呼ばれる外国医科大学卒業生に依存しています。その数はアメリカで働く医師の約4分の1(26%:24万5457人/94万1304人)にも上ります。彼らの出身国を割合の高い順に挙げると、インド(20.7%)、フィリピン(8.3%)、メキシコ(5.6%)、パキスタン(4.9%)、ドミニカ共和国(3.2%)となります(2007年)[4]。そして、外国医科大学卒業生は、乳児死亡率が高い地域、世帯収入が低い地域、白人が少ない地域、都市部から離れた地方に多いと報告されています。
日本で医師の供給量を増やそうとして医学部の定員を増やしても、一人前の医師が誕生するまでには、6年制の医科大学と卒業後数年間の研修を含めて10年程度の年月がかかります。同様に、アメリカでも医学部の定員を増やすところから始めると、4年制の医科大学と最短3年のレジデンシー課程で、やはり7年以上の期間が必要です。
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著者プロフィール
永松 聡一郎
ミネソタ大学呼吸器内科・集中治療内科クリニカルフェロー
2003年東京大学医学部医学科卒。アメリカ内科専門医(ABIM)。帝京大学市原病院麻酔科、ミネソタ大学内科レジデントを経て、2008年より現職。専門分野は集中治療におけるQuality Improvement。病院間で異なる治療プロトコールの標準化や多施設間クリニカルトライアルのコーディネートを行っている。趣味は演劇、航空機。

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