前回の記事では、1990年代から2000年代にかけて、入院患者の診療だけを担当する医師たち―ホスピタリスト(hospitalist)―が誕生した背景を紹介しました。そして、マネージドケアの浸透と、医師が病棟に常在することを求める病院のニーズとが、ホスピタリストを誕生させる一因になったことを説明しました。
それを受けて今回は、ホスピタリストが病院の中で医療の質を向上させるために、どのようなリーダーシップを発揮しているかをレポートしていきます。
ホスピタリストの年収は2000万円!?
まず、ホスピタリストの待遇面について簡単に触れましょう。ホスピタリストの生活の最大の特徴は、シフト制の勤務ができることにあり、それに合わせてワークライフバランスの取れた生活を送ることができます。よく見られる勤務体系の一例として、連続した7日間の病棟勤務を行い、続く7日は完全な休暇を取るサイクルを繰り返すというものがあります。オフの期間は自分の勉強のために費やしてもよし、家族と過ごすのもよし、旅行に行っても構いません。
働く週数や時期さえも、病院や雇用者との交渉で決めることができます。例えば、私のルームメイトのデイビス医師は、1年のうち半年間ほどをアメリカでホスピタリストとして働き、残りの期間はアルゼンチン、タイ、ラオス、タンザニアなどで研究活動を行っています(どうやら今月はオランダにいるようです)。彼以外にも、アメリカと世界各地を股にかけて国際貢献活動をしているホスピタリストを私は何人か知っています。
こうしたホスピタリストの収入は、どの程度のものでしょうか? 2009年の報告によれば、ホスピタリストの収入の中央値は、レジデンシーを終えた直後の初任給で16万5000ドル、ホスピタリスト全体では21万1835ドルとされています[1]。すなわち、年収にすれば日本円で2000万円を超えるのです。この額は、シフト数(勤務時間)、専門分野(成人専門の方が小児科よりも高い)、雇用体系、ICU勤務の有無、夜間勤務の有無、勤務地域などの条件によって影響を受けます。
次に、ホスピタリストと病院が、どのように雇用契約を結ぶのか紹介します。アメリカにおける医師の雇用体系は多様なので一概には述べることはできないのですが、多くの場合、病院は個々の医師ではなく、医師のグループと契約を交わすことによって、病院で診療を行う権利(privilege)を医師グループに与えます。そして、個々の医師は病院の従業員とはならずに、医師グループによって雇用されることになります。アメリカの医療サービスを利用すると、ホスピタルフィーとドクターフィーとが別々に請求される理由はここにあります。
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著者プロフィール
永松 聡一郎
ミネソタ大学呼吸器内科・集中治療内科クリニカルフェロー
2003年東京大学医学部医学科卒。アメリカ内科専門医(ABIM)。帝京大学市原病院麻酔科、ミネソタ大学内科レジデントを経て、2008年より現職。専門分野は集中治療におけるQuality Improvement。病院間で異なる治療プロトコールの標準化や多施設間クリニカルトライアルのコーディネートを行っている。趣味は演劇、航空機。

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