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医師の労働時間を考える Vol.3
ホスピタリストの誕生― 彼らは急性期病院の救世主になるか?

2010/04/30
永松聡一郎

ミネソタ州内最大で約70人のホスピタリストを抱える HealthPartners Medical GroupのチーフであるDr. Jerome Siy(写真右)と筆者(左)。

 これまでの連載では、1984年のリビー・ジオン事件をきっかけとして、2003年にACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education:卒後医学教育認定評議会)がレジデントの労働時間を週80時間以内に規制するまでの過程を解説してきました。

 この80時間労働制限の影響を顕著に受けたのは、レジデントの労働力に依存していた、急性期医療を受け持つ大規模の教育病院です。単純に計算して、週100時間働いていたレジデントが週80時間しか働けなくなると、レジデントによって担われていた労働力の20%を失うことになります。この失われた労働力を埋め合わせるには、医師の数を増やすか、医師によって行なわれている業務を他の医療職種で分担するか、医師の生産性 (productivity)を上げるか、いずれかの必要があります。

 医師の数を増やすといっても、メディカルスクールの定員を増やしてから医学生が卒業するまでには4年間かかります。さらに、新卒の医師が一人前になるまでには数年間の卒後教育(レジデンシー)が必要ですから、効果が出るまでには長い年月がかかります。外国人医師を「輸入」する手段も考えられますが、アメリカではごく一部の例外を除き、外国で経験を積んでいる医師でも、レジデンシーのトレーニングを初めから受け直さなければ正規の専門医になることができません。ですから、2000年代のアメリカでは、医学部入学定員を急増させることや、外国人医師への門戸が急激に拡大することはありませんでした。

 さて、医師によって行なわれている業務を他の医療職種が代わって行なうことを「代用」(physician substitution)と呼びます。これは近年のアメリカで起こっている現象で、「ミッドレベルプロバイダー」(mid-level provider)と呼ばれるフィジシャンアシスタント(PA)やナースプラクティショナー(NP)が、医師の行なっている業務の一部を補助ないし代行しています(この代用が進んだ歴史的な背景については、また別の機会に述べたいと思います)。

 では、医師の生産性を上げることができるのでしょうか? それを可能にしているのが、急性期病院のエキスパートである「ホスピタリスト」(hospitalist)と呼ばれる新しい専門家たちです。今回は、このホスピタリストが誕生した背景をリポートしたいと思います。

著者プロフィール

永松 聡一郎

ミネソタ大学呼吸器内科・集中治療内科クリニカルフェロー

2003年東京大学医学部医学科卒。アメリカ内科専門医(ABIM)。帝京大学市原病院麻酔科、ミネソタ大学内科レジデントを経て、2008年より現職。専門分野は集中治療におけるQuality Improvement。病院間で異なる治療プロトコールの標準化や多施設間クリニカルトライアルのコーディネートを行っている。趣味は演劇、航空機。

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