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めまいからの心肺停止! 原因は?

2015/01/23
日比野誠恵

 ロシア人でロシア語しか話せない84歳の女性患者が、息子さんに連れられて月曜の朝8時過ぎに救急部を受診しました。心房細動の既往があり、金曜くらいから若干の呼吸困難感を覚え、過去に心房細動が起こったときの症状に何となく似ているという訴えでした。

 心電図を見ると、やはり心房細動で頻脈になっています。過去の心電図と比較して特に有意な差異はありません。とりあえず、血圧は十分あって意識もしっかりとしており、胸痛のような虚血症状もなく安定しているようなので、落ち着いてマネジメントに移ることにしました。

 いつもワルファリンを服用しているようなのですが、患者いわく、電気的除細動は亡くなった旦那が「それで死んだ」ので絶対に受け入れられず、ジルチアゼムは「アレルギーで血圧がすごく下がった」ので受け入れられないということで、エスモロールのボーラスと点滴(年配なので少なめに)ということにして、オーダーを出しておきました。

 珍しいことに、月曜の朝にもかかわらず、まだあまり患者が来院していないので、私はドクターズラウンジへ行ってコーヒーとドーナツを摂りつつコンピューターに向かいました。しばらくすると、チャージナース(主任看護師)から「心肺停止CPA)、すぐに来て!」とインターカムで呼ばれました。クリティカルケア・ベイへ行ってみると、さっきのロシア人のおばあさんが無脈性電気活動(pulseless electrical activity;PEA)の状態になったということで、1人の看護師が心肺蘇生CPR)、もう1人の看護師はバッグバルブマスクをしながら部屋に入ってきました。

嫌な予感がよぎりつつも、まずは安定化に専念
 CPA前の状況を受け持ち看護師に尋ねると、どうも「めまいがする」と訴えるやいなやPEAになったということでした。この「めまいがする」というのは非常に頻繁にある主訴なのですが、まれにこのようにCPA直前に訴えることもあります。ある程度長く救急医をやっていると出くわす事態ですが、同僚も「めまいはヤダよなあ」とよく言っています。

 まずはABC(airway、breathing、circulation)からの安定化を試みます。CPRを止めてみても脈も呼吸も意識もないので、CPRを再開しつつ気管挿管に移ります。エピネフリンをオーダーしながら、よく言われる5H5T※1)に沿って見落としがないように考えてみましたが、この患者の場合は心房細動による頻脈ということで、肺血栓塞栓症と急性冠症候群はとりあえず除外すべき致死疾患だといえます。また、この段階で治療としてオーダーしたエスモロールが投与されていたとすると、beta blocker OD(β遮断薬の過量摂取)の可能性も浮上してきます。

 ちょうど10年ほど前、同僚のムローゼック先生がレッドウィングという街の救急部で働いていたときの話が脳裏をよぎりました。90歳超の女性患者が心房細動による頻脈で来院した際、エスモロールをボーラスして点滴を始めたそうです。家族が見守る中、エスモロールを投与して一緒にモニターを眺めていると、だんだんと徐脈になり、やがて心停止に至りました。

 ムローゼック先生は家族に対して「90歳を超えていることもあり心臓が“力尽きた”ようです」と説明しながら、DNR/DNI(蘇生不要/挿管不要)の意思があったこともあり、丁重に死亡の確認をしたそうです。ところが、それから5分もしないうちに薬剤師が息を弾ませて救急部に現れ、「あのエスモロールは100倍の濃度だったので使わないでください!」と叫んだということでした。

エスモロールのボーラスが急変の原因?
 その後、ロシア人の女性患者は幸いにも自発循環再開(recovery of spontaneous circulation;ROSC)となり、収縮期血圧70~80mmHg、脈拍120~130/分となりました。ベッドサイドの超音波でRUSH exam(rapid ultrasound for shock and hypotension)(※2)[1]をすると、腹腔内、胸腔内、心膜腔内に遊離体液(free fluid)はなく、特に右心室が左心室より大きいこともなく、下大静脈の虚脱や気胸もないようでした。生食とノルエピネフリンを投与し、さらにbeta blocker ODの可能性を考えてグルカゴンとカルシウムを投与しました。


著者プロフィール

日比野 誠恵

ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

1986年北里大学医学部卒。横須賀米海軍病院、セントジュウド小児研究病院、ピッツバーグ大学病院、ミネソタ大学病院を経て、1997年より現職。趣味はホッケー、ダンス、旅行など。

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