日経メディカルのロゴ画像

臓器移植で誕生した「100万ドルの男」

2012/07/18
日比野誠恵

 私が高校生だった頃、「600万ドルの男」というアメリカのテレビ番組がありました。主人公が大けがをした後にサイボーグとなって悪党どもをやっつけるという筋書きのSFドラマで、サイボーグになるために600万ドルかかったということで、このタイトルが付いていました。

 600万ドルには及ばないものの、元副大統領のディック・チェイニー氏も「100万ドルの男」(a million dollar man)になったということで、こちらのメディアでいろいろと取り上げられていました。

臓器移植の順番に「横入り」はあるか
 チェイニー氏はジョージ・W・ブッシュ政権時の副大統領だったわけですが、当時のイラク戦争や石油採掘機販売会社ハリバートンのCEOを務めた経歴に絡んで、評価はかなり分かれていました。つまり、ある意味で問題児としても見られていたわけです。

 その経歴の裏で、37歳にして最初の心筋梗塞を起こして以来、これまで合計5度の心筋梗塞を経験。冠動脈バイパス、冠動脈ステント、左室補助装置(人工心臓)を経て、今年3月には71歳にして心臓移植を受けました。

 アメリカ心臓病学会ACC)のスポークスパーソンであるメアリー・ウォルシュ医師の発表によると、少なく見積もっての概算で、心筋梗塞そのもののマネジメントに10万ドル、冠動脈バイパス/ステントなどで17万5000ドル、人工心臓関係に30万ドル、こうして心臓移植関係に50万ドルは要するとのこと。そして、「100万ドルの男」が誕生したというわけです。

 30年以上に及ぶチェイニー氏の心臓疾患との闘いについて、アメリカ心臓協会AHA)のスポークスパーソンであるマリエル・ジェソップ医師は、過程をオープンにしたことで、心筋梗塞や末期心不全を含む心臓疾患への認識、そしてより有効な治療への啓蒙に多大な貢献をしてきたと発表していました[1]。

 有名人、特に敵が多く批判の絶えない方々が臓器移植などの生死を左右するような高度医療を受けると、巷では「特権やえこひいきで、待機の順番より優先されたのでは?」とささやかれるのが常です。大リーグ史上最強のスイッチヒッターとして名高い選手だったミッキー・マントル氏は、肝硬変から肝癌を合併して肝臓移植を受け、その後に肺転移が見つかりました。彼の場合でさえ(人々から非常に愛された選手だったと義父より聞いています)、優先して移植を受けられたのではという疑念を伝えるテレビ番組が1990年代に放送されていたと記憶します。そんなずるいことが、本当にあるのでしょうか?

 移植外科の医師に聞くと、そういった細工は不可能だということです。レシピエントは全国組織のレジストリーに登録されており、ドナーとのマッチングは厳格な医学的基準に準じて行われ、各病院に報告される仕組みになっているため、不正の入り込む余地はない。諸条件に応じて順番を入れ替えることはあっても、あくまで厳格な医学的な判断に基づくそうです。チェイニー氏の主治医だったジョナサン・レイナー医師によると、アメリカにおける心臓移植の平均待機期間12~18カ月のところ、チェイニー氏の場合は20カ月かかっていました[2]。

著者プロフィール

日比野 誠恵

ミネソタ大学ミネソタ大学病院救急医学部准教授

1986年北里大学医学部卒。横須賀米海軍病院、セントジュウド小児研究病院、ピッツバーグ大学病院、ミネソタ大学病院を経て、1997年より現職。趣味はホッケー、ダンス、旅行など。

この記事を読んでいる人におすすめ