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プロポフォールが足りない!―アメリカの危うい医薬品供給体制

2010/09/30
岡野龍介

クリーンベンチで清潔操作を行っている薬剤師。昇圧剤、インスリン、抗菌薬などの点滴用薬剤は、手術室内の薬局出張所で調製し、オーダーから数分で手渡してもらえる。

 インディアナ大学病院手術部には、薬剤師が常駐する薬剤部の出張所があります。手術部で使用する薬剤はすべて、ここから供給されます。ある朝、そこの窓口に次のような張り紙が貼られました。

 「全米でプロポフォールが不足。20 mLバイアルはもうありません。プロポフォールは薬剤部で20 mL注射器に小分けしてお渡しします」

 2009年の秋ごろから2010年の春にかけて、プロポフォール、チオペンタール、サクシニルコリン、シスアトラキュリウム、ベクロニウム、エフェドリンといった、麻酔に必要な基本的な医薬品が、全米で次々に供給不足に陥るという事態が発生しました。中でも、プロポフォールの供給不足は深刻なものでした。

 折も折、マイケル・ジャクソンがプロポフォールの過量投与で死亡するという事件があって間もないときですから、このプロポフォール供給不足に関しては様々な憶測が飛び交いました。アメリカほどの先進国で、麻酔や鎮静の75%に使用されている普遍的な医薬品が、なぜ突然、供給不足に陥ったのでしょうか?

プロポフォールの度重なるリコール
 プロポフォールの供給不足という事態は、そもそも2009年7月にTevaという製薬会社が生産を一時停止しなければならなくなったことに端を発します。このとき、アメリカのプロポフォールは、Teva、HospiraAPPの3社による供給体制でした。Teva社製のプロポフォールの投与を受けた患者が感冒様症状を呈し、原因としてバイアル内への高濃度のエンドトキシン混入が疑われたため、同社は生産を一時中止してリコールをかけました[1]。

 それから3カ月の2009年10月、今度はHospira社が、プロポフォールのバイアル内に金属片が混入したとして、製品のリコールおよび生産の一時中止を行いました。度重なるリコールのために、アメリカ国内のプロポフォールの流通在庫は25%以上減少し、不足が深刻になっていきました[1][2]。

 ASA(アメリカ麻酔学会)は、この事態を受けて、2009年11月に次のような声明を発表します[3]。

著者プロフィール

岡野 龍介

インディアナ大学病院麻酔科アシスタント・プロフェッサー

1962年ニューヨーク生まれ。1988年産業医科大学卒。1993年に新日鉄広畑病院で麻酔科を設立、手術室・ペインクリニック・救急部の設計に携わる。10年間勤務の後、渡米。2003年インディアナ大学病院麻酔科レジデント、2007年シンシナティ大学病院ペインフェローを経て、2008年より現職。米国麻酔専門医。趣味はサイクリング、料理、日曜大工、映画鑑賞など。

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