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競争の激しいロボット手術の世界で女性医師が勝ち抜くには

2015/02/26
宮川絢子

 スウェーデンで勤務を始めた当初は医師免許取得、そして専門医資格取得という、ある意味で競争のないところからの出発でしたが、その段階を過ぎると、やはり同僚との競争になります。現在、私は泌尿器科で主にロボット手術と開腹術を担当しているため、前立腺全摘膀胱全摘といった大手術を中心に手がけています。流行の領域ということもあり、その周辺では順番争いやテリトリー争いが水面下で常に激しく展開されています。

のんびりと育児休暇を取っているわけにも…
 ロボット手術を始めるためには、通常の手術と同様に、助手を含めて一定のトレーニングを経験しなければなりませんが、日本のように待っていれば年功序列で自動的に順番が回ってくることはありません。同僚と良い関係を築いて上手に根回しする必要があります。正直、都合の良い助手として使われ、後から来た外科医にも抜かれてしまった時期もありました。

 しかも、私はスウェーデンでは初めての女性ロボット外科医だったため、カロリンスカ大学病院泌尿器科のロボット外科チームでも、当然、女性は私ただ一人です。そして「移民であること」「女性であること」はスウェーデンにあってもハンデであり、私もその例外ではありませんでした。

 そうした厳しい状況で術者の地位を勝ち取るためには、精神的にも肉体的にもタフでなければなりません。したがって、男女の双子を産んだのも束の間、のんびりと育児休暇を取っているわけにはいきませんでした。双子の出産前は、破水前日まで手術をしていました。双子は未熟児だったため、出産後ほどなく母乳育児を断念しなければならなかったのですが、逆にそのことで母親だけが育児休暇を取る理由もなくなりました。

 双子の経管栄養が外れて哺乳びんでの授乳が軌道に乗った産後3カ月の時点で、すぐさま職場復帰しました。復帰後、ただちにロボット手術の術者として執刀する段取りを取り付け、現在は、前立腺全摘に関しては、完全に独立した術者として手術に臨んでいます。

 私は出産前の段階で既に300例ほどのロボット前立腺全摘術の助手を経験しており、復帰後は指導者の下で数十例ほど部分的に執刀させてもらうとともに、シミュレーターによるトレーニングも積みました。単独で執刀するようになってから約1年となりますが、この1年間でおよそ100例のロボット前立腺全摘術を執刀しています。

先進医療に積極的なスウェーデンの医療現場
 日瑞(スウェーデンは漢字では「端典」)の医療水準を比較してみると、優劣を付けることは難しいように思います。双方に得意・不得意があるという印象です。別の機会に述べることになりますが、スウェーデンでは徹底的な医療費削減の努力がなされている一方で、高額な先進医療をいち早く取り入れることが可能なシステムがあるようです。ロボット手術もそのうちの一つです。

 カロリンスカ大学病院では2002年、スウェーデンでは初めて手術ロボット「da Vinci」による前立腺全摘術を始めました。症例数は年々増加し、2014年には600例余りの手術が行われました。入院治療における医療費の自己負担はないため、当初より階級や貧富の別なく患者は平等に先進医療の恩恵にあずかることができました。

 前立腺の解剖は個々の症例でかなりバリエーションがあり、癌治療とQOL(勃起機能や尿禁制)の維持というバランスが取れた手術をするためにはミリメートル以下のレベルでの切除範囲の調節が必要となります。「手術を完投できる術者」と「最適な手術ができる術者」は同義ではなく、両者の間には技術的に大きな差があるのです。前立腺周囲の組織を切除しすぎれば勃起神経や尿道括約筋の機能が損なわれるし、逆に残しすぎれば癌が残るリスクが高くなるという点がこの手術の奥の深いところで、「最適な手術ができる術者」になるためには相当数の症例経験が必要なのです。

著者プロフィール

宮川 絢子

カロリンスカ大学病院泌尿器科

1989年慶應義塾大卒。同大耳鼻咽喉科、麻酔科、泌尿器科で研修後、96年泌尿器科専門医資格取得。95年医学博士号取得。96?03年琉球大で勤務。この間、カロリンスカ研究所およびケンブリッジ大学にてポスドク。05?07年に東京医大で勤務後、07年スウェーデンに移住。08年スウェーデン医師免許、09年スウェーデン泌尿器科専門医資格を取得。08年より現職。12年に双子を出産。東京医科大学非常勤講師、医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構アドバイザーも兼務する。趣味はピアノ、テニス、エアロビクス、料理、子育て。

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