日経メディカルのロゴ画像

永住権証明書の再発行を待てずに死んだ患者

2011/06/30
大内啓

筆者が勤務するLong Island Jewish Medical CenterのCCU。「非医学的」な理由で、助かるはずの患者の命を助けられないことがあります。

 まだ臨床経験が少ない私ですが、医療制度の壁が最悪の形で我々の手足を縛り、医療者としてやるせない思いをさせられたケースを紹介したいと思います。

保険がないなら死を待つしかない?
 私がLong Island Jewish Medical CenterのCCUで働いているとき、南米ギアナ地方からの移民の43歳男性が胸痛を訴え、卒倒して運ばれて来ました。ニューヨークにはギアナ地方からの移民が多い地区があり、教科書には載っていませんが、彼らはとても高い心疾患のリスクを持っているといわれます。

 ERでのエコーや血液検査によって、前側壁心筋梗塞からの心原性ショックであると診断され、中心静脈ラインから強心薬を入れながら大動脈内バルーンパンピングを行いましたが、冠動脈左前下行枝が100%閉塞していたので、心臓カテーテルでは何も治療ができないままCCUで経過観察となりました。それから2日間、心機能は落ちるばかりで、強心薬の量は増え、現状維持さえも不可能になりました。

 ほかに何も病歴がない若い患者だったことから、この時点で、心臓移植の適応とみなされ、近隣の某大学に送る手続きが取られ始めました。そして、受け入れ先のその大学から移植外科医が来院し、移植のための医学的診断が終了した後、「非医学的」な問題が発覚しました。

 患者は無保険ながら、入院時は「緊急メディケイド」が適用可能だったものの、数十年前に取得した永住権証明書を紛失しており、永住権保持者としての証明をして正規のメディケイドを取得することができませんでした。移植を行うには、長いアフターケアのために正規のメディケイドが必要になるため、彼は自分の移民状況を証明しなくてはいけませんでした(*注)。

 臓器移植はとてもコストがかかる手術で、私も身近な家族がアメリカで肝臓移植を受けていますが、最低でも数千万円の負担が必要で、無保険の場合はもちろん、正規のメディケイドであっても州によっては患者を助けることができません。ニューヨーク州では正規のメディケイドで移植をすることが可能なので、永住権証明書さえあれば患者の命を救う可能性が出てくるはずでした。

著者プロフィール

大内 啓

North Shore - LIJ Health System 救急医学科・内科レジデント

大阪府生まれ。12歳で渡米し、2009年ジョージタウン大学医学部卒業。マンハッタン郊外のLong Island Jewish Medical Centerにて、救急医学科/内科の二重専門医認定(全米で年23人限定)を取得するレジデントとして勤務。医療の格差や効率性、提供方法に関心を持っている。趣味はランニング、お酒、息子と遊ぶこと。

この記事を読んでいる人におすすめ