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予後不良の僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁クリップの可能性

2014/12/22
金子英弘

図1 MitraClip (提供:アボットジャパン)

 第2回僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation;MR)に対するカテーテル治療として期待されているMitraClip(商品名)(図1)をご紹介しました。今回は、MitraClipが実際どのような症例に有効と考えられるかについて述べたいと思います。

すべてがMitraClipで治療できるわけではない
 MitraClipの適応を考える上でまず重要なのが、心エコーによる解剖学的な評価です。詳しい記述はあまりにも専門的なので控えますが、「石灰化が強い」「僧帽弁狭窄症を合併する」「後尖が短い」などの場合にはMitraClipによる治療は困難です[1]。

 ですから、心臓外科手術ではリスクが高くMitraClipを検討するとしても、すべての症例でMitraClipが可能なわけではありません。あくまで心エコーでMitraClipが可能と判断される症例のみという点が大切です。

治したのに、左室機能が悪化?
 心エコーによる詳しい解剖学的評価に加えて、MitraClipの適応を考える上で極めて重要なのが、MRにおける2つの病態です。

 専門的な話になりますが、MRは器質性と機能性の2種類に分類されます。器質性MRは、僧帽弁そのものの異常(僧帽弁逸脱、腱索断裂など)によるものです。一方、機能性MRとは、僧帽弁は正常であるにもかかわらず、心不全に伴って左心室が大きくなり(左室リモデリング)、腱索が引き伸ばされること(tethering)で僧帽弁の閉鎖が不十分になるものです。機能性MRは、弁そのものの異常ではなく、心不全によって二次的に起こるMRということで、二次性MRと呼ぶこともあります。

 そして、どちらの病態でも外科的手術を行ったときに危惧されるのが、術後に左室機能(収縮能)が悪化することです。「病気を治したのになぜ心機能が悪くなるのか」と思われるかもしれません。MRの状態では、本来、大動脈に駆出するべき動脈血が、逆流があることで左房にも“逃げて”います。そして、大動脈に比較して圧の低い左房に血液を駆出するという点で、MRがあることで左室は楽をしていると考えることもできます。MRを治療することで逆流はなくなるわけですが、そうすると一気に逃げ場所を失った左室の駆出能が低下してしまうという考え方です。

 このことからMRの症例では、一見、左室駆出能が正常に見えても、実際にはかなり低下している可能性を考えなくてはなりません。この点がMRに対して外科手術を考える上で難しいところです。そして、高齢者や合併症が存在する場合には、さらに手術のリスクが高まります。

心臓病治療におけるアンメット・メディカル・ニーズ
 こうしたことから、実際に手術が必要な重症MRであっても、約半数の症例で手術が選択されていません[2]。そして、手術を選択しなかった理由の主なものが、高齢、低心機能、合併疾患の存在でした。

 ただ、当然ながら、高齢や低心機能は心不全のリスクそのものですから、このような症例では本来必要な手術も行うことができず、心不全増悪による入退院を繰り返すという強力な負のサイクルに陥っていくのです。私自身も日本でこのような患者を多く担当し、入院を繰り返すたびに体力が落ちていく姿を見て、何か有効な治療法はないものかといつも考えていました。おそらく、日本で循環器診療に携わっている皆さんも同様の経験を重ね、同じような問題意識を持っているのではないかと思います。

 心不全や低左心機能に合併する機能性MRについては、わが国におけるデータが不足していましたので、私が日本で学んだ循環器専門病院のデータベースを用いて現状を調べてみました。

著者プロフィール

金子 英弘

循環器内科医(ブランデンブルグ心臓病センター・ブランデンブルク医科大学)

東京都出身。2004年慶應義塾大学卒。同大医学研究科にて基礎研究に従事後、心臓血管研究所付属病院で循環器臨床(主に心臓カテーテル治療)、臨床研究に携わる。14年4月より日本学術振興会海外特別研究員として、ドイツのブランデンブルグ心臓病センターに留学。ドイツ医師資格を取得し、TAVI、MitraClip、左心耳閉鎖などstructural heart disease interventionの手技・臨床研究を行っている。16年4月からは常勤スタッフとして勤務。専門分野は、心臓カテーテル治療、虚血性心疾患、心不全、心臓弁膜症。医師資格(日本・ドイツ)、医学博士、循環器内科専門医。趣味は読書(歴史小説)、スポーツ観戦(野球、サッカー)。

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