日経メディカルのロゴ画像

忙しい臨床現場でガイドラインを活用するには

2012/03/08
喜吉テオ紘子

 昨年の6月、無事に博士論文審査に合格することができ、晴れて“Dr.”の称号をいただきました! 博士研究用のデータを集め始めて約1年後でした。私の研究テーマは「看護師の臨床ガイドラインの活用」―。人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia;VAP)の予防に当たって看護師はガイドラインをどのように活用しているのか、ガイドラインの利用促進因子は何か―ということの探究でした。

臨床現場で読めない「臨床ガイドライン」
 医師の読者の方々は「看護師のための臨床ガイドラインだって?」と思われるかもしれませんが、看護介入もエビデンスに基づいていることが重要なのです。現に、アメリカで使用される看護手順(もしくは看護マニュアル)は、手技の説明だけでなく特定の患者アウトカムを目的とした、エビデンスに基づいたものに移行しています。

 私がこのテーマの研究を始めたきっかけは、「患者アウトカムに対して、看護がどう貢献しているのかを数量化したい」という考えからでした。感染予防は看護実践の中で極めて重要な位置を占めており、臨床ガイドラインはその有力なツールです。しかし、現場では十分に活用されていないことが多く、問題視されてきました。

 自分自身を振り返ってみても、頭ではガイドライン推奨派でありながら、実際に利用するとなると躊躇していました。在りかを探すだけで時間がかかるし、探し当てたところで20ページに及ぶものもあります。内容が分かりにくいこともしばしばで、忙しい臨床現場で読むことを想定しているとはとても思えないものが多いというのが実情でしょう。

 臨床ガイドラインには、同じ疾患や症状を対象としたものでも様々な種類があり、内容の充実度やエビデンスの評価基準には差があるし、ガイドラインの利用者に応じて焦点も異なってきます。例えばVAPの場合、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインの内容が最も充実しています(あまりに充実していて、いざ臨床に導入しようとしても焦点が絞りにくいきらいもあります)。最も知られているのは、Institute for Healthcare Improvement(IHI)のものでしょう。そのほか、アメリカの専門職団体が発行するガイドラインとして、胸部外科学会のもの、医療疫学学会のもの、クリティカルケア看護学会のものがあります。

 一般に、これらの専門職団体の臨床ガイドラインが、そのまま臨床現場で活用されることはありません。現場で既成のガイドラインを導入する際は、それを基盤として、その組織のシステムや患者層に対応した独自のガイドラインが作成されます。

 組織独自のガイドラインを作成するメンバーは、VAPの場合なら、医師、看護師、感染対策部スタッフ、呼吸療法部スタッフというように、職種や部門をまたいで集められます。ガイドラインを作成するに当たって重要となるスキルは、エビデンスまたは他のガイドラインを批評するスキルです。これは高度専門教育で学ぶことが多いので、看護部門であれば大学院教育を受けた専門看護師が担当するということになるでしょう。

臨床ガイドラインのアドヒアランスに影響する因子は?
 臨床ガイドラインが普及する一方で、そのアドヒアランス(遵守)、またアドヒアランスに影響する因子についての研究は残念ながら乏しいのが現状です。その代表的な研究は、Cabanaら[1]による文献レビューと概念枠組み(1999年)、Sinuffら[2]による集中治療室における臨床ガイドラインについての質的研究(2007年)などです。ですから、アドヒアランスの影響因子を総合的にとらえた量的研究、また看護師のアドヒアランスを探究した私の研究の意義があるのだと思います。

 医療機関が組織的にガイドラインを整備していたとしても、実践者がどう捉えているかは分かりません。ですから私の研究では、ガイドラインに対する実践者の意識、ガイドラインの質、組織的環境(臨床実践環境)を把握するために、横断的アンケート調査を行うことにしました。各医療機関で「VAP予防ガイドライン」として指定されているものでも、記載の予防対策自体は同一でない可能性が高いことを踏まえ、カリフォルニア州内の公立・私立8病院を研究対象としました。

著者プロフィール

喜吉テオ紘子

カルフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)看護学博士課程
/UCSF Medical Center 臨床研究病棟看護師

10歳から15歳までアメリカで過ごす。帰国後、国際基督教大学高等学校に入学。2000年聖路加看護大学卒業後、2003年まで虎の門病院分院の内科病棟(肝臓・精神科)勤務。2005年カルフォルニア大学サンフランシスコ校看護学修士取得(看護管理・医療政策専攻)。2005年よりカルフォルニア州Registered Nurseとして現職。2007年よりUCSF看護学博士課程に在籍。日米の医療安全・医療の質向上に興味を持つ。在米中は主に翻訳・投稿・学会発表を通じて日本の看護界とのコネクションをキープ。博士論文のテーマは「呼吸器関連肺炎(VAP)予防ガイドラインの活用促進因子の探求」。趣味は料理、ランニング、サイクリング、ワイン・テイスティング(カルフォルニア・ワインはいいですよ)。

この記事を読んでいる人におすすめ