
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)Clinical & Translational Science Institute(CTSI)の臨床研究病棟。
臨床研究病棟に入る被験者には、大きく分けて、健常ボランティアと特定の疾患を持つ患者がいます。私たちリサーチナースは、臨床研究が円滑かつ確実に進むように努める一方で、被験者やその家族のケアに心を砕いています。今回は、治験に参加する人々の様子を紹介しながら、彼らにとって治験がどのような意味を持っているのか、考えてみたいと思います。
大勢のヒッピーが大騒ぎ…もあったりしますが
健常者を対象とした研究では、多くの場合で新聞やラジオ、街頭広告を使ってボランティアの被験者を募っています。ボランティアに対しては、1回の外来ごとに10~20ドルほどの謝礼と駐車場代が支払われますが、多くの応募者は謝礼金がどうこうというよりも、「医学の進歩に貢献したい」という真摯な思いで参加していました(中には「自分の血液のデータを知りたい」という人もいましたが…)。アメリカ人のボランティア精神にはいつも頭が下がります。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の学生が臨床研究に参加するケースも多くあります。私の夫は医学生のとき、少々の小遣いと「患者経験」のために抗菌薬の治験に参加し、1~2週間にわたって抗菌薬を内服し、最後には気管支鏡を飲み、12時間に及ぶ採血を経験しました。気管支鏡を使うのは、抗菌薬の肺への浸潤の程度を調べるためです。私が夫の“お見舞い”に行ってみると、「病室が快適なおかげで勉強がはかどる」と言って元気そうでした。特に、インターネットが使える点がよかったようです。
健常ボランティアを対象とする研究では、内容によって参加者がバラエティに富んでいます。例えば「高血圧と塩分」の研究は28日間の継続入院を要し、その間は病棟から一歩も外に出られないので、「応募者がいるのだろうか?」「いるとしたら、どのような人なのだろうか?」と思っていましたが、最終的には約30人もの人が研究に参加しました。ホームレス宿舎に寝泊りしている人や、刑務所から出たばかりの人など、普通ではかかわりがないような顔も見えました。中には病棟がすっかり気に入ってしまう人もいて、リピーターまで出るほどでした。
また、「エクスタシー(合成麻薬の一種)の副作用」の研究では、麻薬経験者であることがエントリーの条件だったため、多くのヒッピーの若者たちが入院してきました。ベッドがあるのになぜか床で寝てしまう人がいたり、大勢の仲間が見舞いに来て大騒ぎになったり、しまいには「病院食をもっともらえませんか?」と聞かれたり、様々なエピソードを残していったのです。