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臨床研究病棟の悲喜こもごも

2010/11/10
喜吉テオ紘子

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)Clinical & Translational Science Institute(CTSI)の臨床研究病棟。

 臨床研究病棟に入る被験者には、大きく分けて、健常ボランティアと特定の疾患を持つ患者がいます。私たちリサーチナースは、臨床研究が円滑かつ確実に進むように努める一方で、被験者やその家族のケアに心を砕いています。今回は、治験に参加する人々の様子を紹介しながら、彼らにとって治験がどのような意味を持っているのか、考えてみたいと思います。

大勢のヒッピーが大騒ぎ…もあったりしますが
 健常者を対象とした研究では、多くの場合で新聞やラジオ、街頭広告を使ってボランティアの被験者を募っています。ボランティアに対しては、1回の外来ごとに10~20ドルほどの謝礼と駐車場代が支払われますが、多くの応募者は謝礼金がどうこうというよりも、「医学の進歩に貢献したい」という真摯な思いで参加していました(中には「自分の血液のデータを知りたい」という人もいましたが…)。アメリカ人のボランティア精神にはいつも頭が下がります。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校UCSF)の学生が臨床研究に参加するケースも多くあります。私の夫は医学生のとき、少々の小遣いと「患者経験」のために抗菌薬の治験に参加し、1~2週間にわたって抗菌薬を内服し、最後には気管支鏡を飲み、12時間に及ぶ採血を経験しました。気管支鏡を使うのは、抗菌薬の肺への浸潤の程度を調べるためです。私が夫の“お見舞い”に行ってみると、「病室が快適なおかげで勉強がはかどる」と言って元気そうでした。特に、インターネットが使える点がよかったようです。

 健常ボランティアを対象とする研究では、内容によって参加者がバラエティに富んでいます。例えば「高血圧と塩分」の研究は28日間の継続入院を要し、その間は病棟から一歩も外に出られないので、「応募者がいるのだろうか?」「いるとしたら、どのような人なのだろうか?」と思っていましたが、最終的には約30人もの人が研究に参加しました。ホームレス宿舎に寝泊りしている人や、刑務所から出たばかりの人など、普通ではかかわりがないような顔も見えました。中には病棟がすっかり気に入ってしまう人もいて、リピーターまで出るほどでした。

 また、「エクスタシー(合成麻薬の一種)の副作用」の研究では、麻薬経験者であることがエントリーの条件だったため、多くのヒッピーの若者たちが入院してきました。ベッドがあるのになぜか床で寝てしまう人がいたり、大勢の仲間が見舞いに来て大騒ぎになったり、しまいには「病院食をもっともらえませんか?」と聞かれたり、様々なエピソードを残していったのです。

著者プロフィール

喜吉テオ紘子

カルフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)看護学博士課程
/UCSF Medical Center 臨床研究病棟看護師

10歳から15歳までアメリカで過ごす。帰国後、国際基督教大学高等学校に入学。2000年聖路加看護大学卒業後、2003年まで虎の門病院分院の内科病棟(肝臓・精神科)勤務。2005年カルフォルニア大学サンフランシスコ校看護学修士取得(看護管理・医療政策専攻)。2005年よりカルフォルニア州Registered Nurseとして現職。2007年よりUCSF看護学博士課程に在籍。日米の医療安全・医療の質向上に興味を持つ。在米中は主に翻訳・投稿・学会発表を通じて日本の看護界とのコネクションをキープ。博士論文のテーマは「呼吸器関連肺炎(VAP)予防ガイドラインの活用促進因子の探求」。趣味は料理、ランニング、サイクリング、ワイン・テイスティング(カルフォルニア・ワインはいいですよ)。

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