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人を育てる、メンタリングというシステム

2010/01/08
市瀬 史

 メンタリングmentoring)とは、特定の領域において知識、スキル、経験、人脈などの豊富な人(メンター)が、そうでない人(メンティ)に対して、自立させることを意識しながら一定期間継続して行う支援行動を意味しています。

 日本では聞き慣れない言葉かもしれませんが、アメリカでは社会の至る所でメンタリングの重要性が認識され、実行されています。アメリカでは、どのような専門職でも、最終的に独立して判断を下し業務を遂行できる、自立した存在になることが自明の理として強く求められます。メンティの独立をできるだけ早く効率的に達成するのがメンタリングの目的です。

 日本語でいえば「師弟関係」における「師」という存在が最もメンターに近いのかもしれませんが、その言葉自体、現代の日本社会ではあまり聞かなくなりました。メンタリングという言葉も日本ではあまり聞きません。

 最終的にメンティの独立を目指すメンタリングは、和を尊ぶ日本社会にはそもそも根付きにくい発想で、それが日本に広まらない一つの要因かもしれません。教授への権力一極集中を基本理念として作られた医局制度をベースに発達してきた日本の医学界では、そもそも教授以外の人間が“独立”できにくい仕組みになっているような気がします。

 他の角度から見てみると、日本社会に広く根付いた先輩・後輩という人間関係が、アメリカでいうメンタリングの役割を担っているとも考えられます。学生時代の運動部の先輩が、医師としてのキャリアを助けてくれる場合もあるでしょう。また、医師になってから医局の先輩がメンターの役割を果たしてくれる場合もあるでしょう。

 逆にアメリカには、先輩・後輩という概念がありません。そもそも先輩・後輩に相当する英語表現がありません。このあたり、日本社会の濃密な人間関係と対照的な、アメリカ社会の希薄な人間関係を反映している気がします。例えば、同じレジデントプログラムの卒業生は同窓生(alumni)で友人(friend)ではあっても、先輩や後輩という関係にはなりません。よく知っている者同士は卒業年度に関係なくファーストネームで呼び合いますし、よく知らない者同士は必要があれば「Dr. ○○」(○○先生)という正式な呼び方をします。

著者プロフィール

市瀬 史

ハーバード大学医学部教授
/マサチューセッツ総合病院麻酔集中治療科・麻酔医

1988年、東京大学医学部卒業。1990年マサチューセッツ総合病院麻酔科レジデント、同フェロー。1995年、帰国して帝京大学医学部附属市原病院麻酔科講師。1998年に再渡米してハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院麻酔科アシスタント・プロフェッサーを経て、2014年1月より現職。専門分野は心臓麻酔、心筋細胞の生理学、一酸化窒素や硫化水素による細胞保護、敗血症と心肺蘇生の分子生物学、人工冬眠の研究。趣味はスキー・テニス・ゴルフ・読書・映画鑑賞。レオナルド・ディカプリオと「The Departed」で共演しました(エキストラですが)。

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