
ある日の夜勤の一コマです。
国土が広大なアメリカでは、一番近い病院間が車で数時間かかるほど離れていることが珍しくありません。そしてもちろん、全ての病院が主要な診療科をそろえているというわけにもいきません。テネシー中部にも「陸の孤島」のような地域が広がっています。
私が現在所属するナッシュビルの新生児医療グループは様々な工夫を凝らしながら、ナッシュビル市内の60床のNICU以外にも、「陸の孤島」まで守備範囲にした複数の病院で新生児医療を提供しています。
小児科医不在の新生児医療体制がスタート
テネシー州の州都ナッシュビルから車を時速80マイル(130km)で飛ばしても45分はかかるところに、ディクソンという町があります。そこにあるコミュニティーホスピタルは、町の住人のためのみならず、周辺の町からやって来る人々にとっても「健康の守護神」のような役割を果たしています。この病院で、私たち新生児ナースプラクティショナー(NP)の効率的な活用がなされています。
この病院には、小児科医は一人も常駐していません。産科医療に携わる医療者にとって、何かあれば小児科医がすぐに駆け付けてくれるバックアップ体制が整っていることは、本来重要なことです。ですから、この病院の経営者は当初、緊急時には新生児専門医が20~30分以内に対応できるという体制の構築を望んでいました。
緊急帝王切開などの必要があっても、この病院には麻酔チームも常駐しておらず、夜間はコールシステムで呼び集めるので、緊急手術を決断してから開始まで30分はかかります。分娩直後に新生児専門医療者の介入ができれば、過疎地の医療の質と安全の向上につながると考えていたのです。
一方、私たちの医療グループには、新生児専門医を常駐派遣する余裕はありませんでした。そこでディレクターのサミーは、(後述するように)この病院の近辺に24時間365日、新生児NPを1人ずつローテーションで配置するシステムを提案。病院経営者との間で合意が得られました。両者ともに、新生児NPの医療専門職としての価値を認めてくださっていたからこその措置だったと思います。
このシステムにより、「総合周産期センターの機能を持つ病院まで車を飛ばしても到底間に合わない過疎地に住む人々が、総合周産期センターで出産するのと同じようなレベルで新生児医療を受けることができたら…」という願いが叶うようになったとも言えます。また、ディクソンの病院からは年間20~30件ほどの緊急時搬送を私たちの医療グループで受け入れていたので、私たちの仕事が確実なものであることを十分に認識してもらっていたことも大きかったのだと思います。
この体制が始まって既に5年余り。病院経営者にも、産科医やナースたちからも、新生児NPは大いに頼りにされて今日に至っています。
退院時に包茎も処置、宿直は病院付近のホテルで
それでは、ディクソンのコミュニティーホスピタルにおける、ある一日の勤務の様子をご紹介したいと思います。朝6時~翌朝6時の24時間勤務です。