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移民の国の初等教育に見るアジアンパワー

2014/09/17
川口敦

 既に人生の半分以上を海外で暮らしており、将来は帰国子女予備軍のわが息子は、この夏から小学生。親である私は期せずして、今まで知らなかったカナダの初等教育の現状と問題点を知ることになりました。

移民の国ならではの多言語教育
 カナダでは、日本のように全国一律のカリキュラムや学校制度が担保されているわけではなく、州によって学校教育システムにバラツキ、いい意味での特色があります。ゆえに、全学校に占める私立・公立の割合も州によってまちまちです。私たちが暮らすアルバータ州では、私立の小学校はわずか1校で、ほとんどの子が公立小学校へ進学することになります。

 ここからが日本との大きな違いです。公立学校であるにもかかわらず、山ほどの「特別プログラム」が用意されているのです。例えば、カナダ全土で人気の「フレンチイマージョン」(French immersion)というプログラム。どのようなものか、想像できるでしょうか。

 これは、幼稚園または小学校1年生から、すべての授業を公用語の一つであるフランス語で行うというものです。基本的に英語を母語(mother tongue)とする子どもたちを対象にしているため、家では英語、学校ではフランス語というスタイルになり、将来のバイリンガルやトリリンガルを目指して多くの保護者が希望して選択します。ちなみに、アルバータ州では、小学校4年生からはフランス語が必須履修科目になっています。

 移民の国カナダですから、第2、第3外国語としての「選択科目」ではなく、アラビア語、ドイツ語、ウクライナ語、ロシア語、中国語(広東語や北京語)、スペイン語など、英語以外の言語だけですべての授業を行うプログラム(immersionあるいはbilingual)が多く用意されています(残念ながら、日本語は含まれていませんが…)。

 言語以外のプログラムとしては、「チャレンジ」という名の特別アカデミックカリキュラム(飛び級は当たり前)や、「コギート」(Cogito)と呼ばれる、個人ワークを重視したアカデミックカリキュラム、音楽や芸術、運動などの能力向上に力を入れたプログラムなども複数の公立学校で提供されています。

アカデミックプログラムには非ヨーロッパ系の子どもが目立つ
 入学後のプロセスにも、日本とはひと味違った特徴があります。ほとんどすべてが公立学校で、しかもかなり「ラフ」な校区(学区)制度のため、入学後も子どものニーズに合わせて簡単に転校ができるのです。「なかなか学校になじめない」「別方面の才能を見つけた」「もっとレベルの高い教育が向いているようだ」といった理由で、2回、3回と転校することも珍しくありません。

 ということで、私たち夫婦も手探りで息子の学校を探すことにしました。校区(学区)内のレギュラープログラムであれば無条件で入学できることが保証されているのですが、いろいろ検討した結果、校区外の小学校のアカデミックプログラムにアプライしてみようということになったのです。念のためご説明しておきますが、カナダの多くの州では基本的にプログラム単位で入学志願をするということになります。ですので、同じ学校内に複数のプログラムが存在するということも起こります。

 驚いたことに、いくつかの小学校の「オープンハウス」に行ったところ、いわゆるアカデミックプログラムで学んでいるのは中東やインド系、東アジア系の子どもたちばかりでした。ヨーロッパ系の顔立ちをした子どもはほとんどいません。逆に、フレンチプログラムはヨーロッパ系ばかり。教育に求めるものが民族によって違うのでしょうか。

 最近のカナダの医学生にはアジア系(特に中国、インド系)が多いといいますが、そうした傾向は初等教育の段階から始まっているのかもしれません。ちなみに人気の高い放射線科の今年の新レジデントは7人中5人がアジア系の「顔」「名前」をしていました。

教育省にメールで抗議、その回答は…
 日本では2007年から全国学力・学習状況調査というものが始まり、試験結果の公表をめぐって議論があったようですが、カナダでも同じような全国学力テストがあります。小学校では3年生と6年生のときに実施される算数と語学の試験で、学校単位の平均点数などが大々的に公表されます。そのランキングを掲載するウェブサイトもあり、過去のトレンドなどを調べることもできます[1]。ちなみに、上位10校くらいは例年同じような顔ぶれで占められており、そうした常連校への入学は公立とは思えない競争率となります。

著者プロフィール

川口 敦

アルバータ大学(Stollery Children's Hospital)小児集中治療クリニカルアシスタント 同大学公衆衛生大学院博士課程疫学専攻

大阪生まれの奈良育ち。2003年大阪大学医学部卒業。神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)にて小児科、ER、麻酔などの初期研修、倉敷中央病院にて小児科専門後期研修。2007年から静岡県立こども病院に勤務し、小児集中治療科(PICU)の立ち上げメンバーの1人となった。2011年春より現職。PICUにおけるQuality Improvement、特に人工心肺、終末期/移植医療に関心がある。趣味はウインタースポーツと旅行。学生時代は「医学生というより、スキー好きのバックパッカーでした」。

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