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ドイツで「人間ドック」が普及しないわけ

2011/08/08
堀籠晶子

筆者が従事している「健診センター.de」での一コマ(一番左が筆者)。海外在住の日本人が気軽に日本語で人間ドックを受診できるように、2009年、北ドイツのドルトムント近郊に開設しました。日本人のみならず、人間ドックを希望するすべての方に健診を提供しています。

 今年は「日独交流150周年」に当たります。1861年1月24日、江戸において日本とプロイセンが「永久の平和と揺るぎない友好」を約束して修好通商条約を結んだのが両国の交流の始まりです。

 150周年を機に、先日、北バイエルン独日協会で講演をさせていただきました。テーマは「日本とドイツにおける医学交流の歴史―ドイツは今、日本の医療から何を学べるか?」。ここで、日本特有の健康診断健診)システムである「人間ドック」を紹介しました。

「健康」なのに検査なんて、もっての外?
 長年にわたり、学問的知識や技術は主としてドイツから日本へと一方的に伝わってきました。そして日本は、その知識や技術を、医学の分野だけではなく他の領域でも、より高度なものに洗練させていきました。現在では、日本で洗練された技術の多くが世界をリードするようになり、西洋の技術発展の模範となっています。また、サービスの分野でも日本は世界の模範となっています。

 医療の分野については現在、日本では人間ドックという、予防医療にサービス要素を加えた健診システムが高いレベルで提供されています。私は日本の誇るべき素晴らしいシステムだと思っています。病気になってから治すのは大変。「疾病の予防、健康の維持」こそ医療の中核をなすべきでしょう。

 しかし、今のところドイツを含めてヨーロッパには、日本の人間ドックに相当する健診施設はわずかしか存在しません。そのわずかの施設も、主に日本人が日本語で日本と同じように受診できることを目的に設立された施設です。ですから、「人間ドックという予防医療サービスこそ、ドイツが今日本から学ぶことのできる分野の一つだ」ということを講演でお話ししました。

 私は、ドイツでも希望するすべての方に人間ドックを提供したいと思い、現地の病院および放射線科と提携して、2009年に「健診センター.de」を開設しました。病院勤務の傍らで、スケジュールを調整しながら予防健診にも携わっています。

 ドイツでは「定期的に健診を受けるべき」という意識が日本ほど浸透していません。そこには両国の医療に対するとらえ方の違いがあります。ドイツにおける医療の主眼は「疾病を発見し、治療すること」です。表現を変えると「疾病のための医学」に重点が置かれています。疾病の早期発見だけではなく健康の維持に注目する「健康のための医学」が進んでいる日本の医療は、一歩先を行っていると思います。

 乱暴な言い方をすれば、ドイツ人は自分の体を車のような「機械」だと思っているのかもしれません。一部が「故障」したら「修理」すればいい。健康な状態(症状がない状態)で医師にかかる、ましてや自分で検査費を払ってまで医療機関を受診する (*注)という意識は非常に低いように思います。

*注:ドイツでは、国民の医療費は原則として健康保険がすべて賄うことになっています。健診も例外ではなく、被保険者は保険適用の範囲内では無料で健診を受けることができます(その代わり、健診の内容および時期は保険者が指定します )。そのため、医療にどれだけの費用がかかっているのか、国民が意識しづらい状況にあります。私がドイツに渡った当初、「医療を受けてもお金を払わないで帰る」ということに違和感を覚えたものです。
 ドイツの国民医療費は膨大になるばかりで、近年では、健康保険ですべてを賄うことが困難になってきました。将来的には、必要最低限の医療以外には保険が適用されないことを覚悟する必要があるかもしれません。しかし、保険料が年々高くなっている上、さらに医療費を自己負担するということには、国民の大きな抵抗があるようです。

著者プロフィール

堀籠 晶子

ミュンスター大学病院(消化器内科・内分泌学教室)・勤務医

上智大学大学院卒業。ドイツ人医師の夫と共に渡独。2004年にミュンスター大学医学部を卒業後、北ドイツにある総合病院の内科にて研修。2010年より現職。休日は、ドイツに点在するお城を散策したり、長く寒い冬にはゆっくりサウナに入ったりして、リフレッシュしています。

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