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肺癌を患った20代女性を思い出してしまう曲

2014/10/24

 皆さんは、あの曲を聴くとどうしてもあの患者さんを思い出してしまう……なんて曲はありませんか? 私には今でもふと思い出してしまう曲があります。以下の文章は、患者さんのお母様の同意を得て記載させていただきました。

 肺癌は、高齢者だけに起こる疾患ではありません。20~30歳代でも手術ができずに肺癌とたたかっておられる患者さんがいます。何年前になるでしょうか、肺の悪性腫瘍を患った20歳代の女性がいました。これから仕事をバリバリしたいと思っていた矢先、肺に病気が見付かったのです。

 告知から後は大変でした。まさか自分が完治できない悪性疾患にかかったとは夢にも思わなかったでしょう。わんわん泣いて、毎日取り乱す日々でした。何とかして治療を導入したかったのですが、既に癌性悪液質を併発しており、到底抗がん剤に耐えられる状態ではありませんでした。

 昨日まで元気に歩けていたのに、今日は足がフラフラして歩けない。昨日まで楽しくおしゃべりできていたのに、今日は酸素を吸入しなければ会話すらできない。―――次第に弱っていく体に、彼女の心がついていけませんでした。私も主治医として診ていて辛いものがありました。

 彼女はあるミュージックバンドが好きで、部屋でいつも彼らの曲を聴いていました。私はX JAPAN世代でしたから、そのバンドについて全く知りませんでした。そのため、彼女との共通の話題を探すかのようにアルバムを近所のTSUTAYAでレンタルして勉強しました。

 そして、毎日のように自分がレンタルして聴いたアルバムの話をしましたが、笑っているのは彼女の顔の筋肉だけで、心は毛ほども笑っていませんでした。心を開いているのか閉ざしているのかよくわからない、手応えのない会話ばかりが何日も続きました。

 入院から2カ月が経った頃、翌月に院内コンサートが迫ってきました。私は毎年ピアノ演奏で参加しているので、今年は是非とも彼女にそのバンドのお気に入りの曲を弾いてあげたいと思いました。自分でもキザったらしいと思いましたが、「マジで!?絶対聴きに行く!」と言ってくれた彼女の今までにない反応をみる限り、まんざら悪いことでもなかったのだと感じました。

 彼女が好きだったのは、非常にメロディアスで、心地よいしっとりとした曲です。よし、この曲を弾こうと思いました。ジャズピアノとクラシックしか弾いたことがなかったため、練習は大変でした。それでも、何とか演奏が形になってきました。

 しかし、1週間後にコンサートが迫った夜中に病棟から電話をもらいました。

著者プロフィール

倉原優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)●くらはら ゆう氏。2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から現職。08年から始めた自身のブログ「呼吸器内科医」をベースにした書籍『「寄り道」呼吸器診療-呼吸器科医が悩む疑問とエビデンス-』を、2013年に刊行した。

連載の紹介

倉原優の「こちら呼吸器病棟」
倉原氏は、呼吸器病棟で活躍する若手医師。日々の診療や、患者さん・他の医療スタッフとのやりとりを通して倉原氏が感じたことを、呼吸器領域ならではのtipsを交えて語ります。呼吸器診療の息遣いが垣間見えるブログです。

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