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病棟に鳴り響いた「銃声」

2013/12/27

 私の患者さんに、ある病気にかかった肥満の男性がいました。BMIが33kg/m2とかなり恰幅のいい大柄の患者さんでしたが、非常に穏やかな性格の患者さんで、痛みを伴う処置の時もニコニコしているくらい我慢強い方でした。

 しかし、そんな彼の背中には、立派な龍の刺青がありました。「いやあ、若い頃はいろいろあってね……」と彼は話してくれるのですが、すべて聞かずとも彼が昔「その道」の人だったことは容易に想像できました。胸水穿刺のときも刺青のデザインを崩さないように配慮して針を刺したのを覚えています。

 ちなみに、「その道」の患者さんは、医療に対して非常に従順で我慢強い方が多いように思います。この患者さんも「先生の言うことなら何でも聞くから、好きにやってくれ」とよくおっしゃっていました。「何か分からないことはありませんか?」とこちらが尋ねても、「オレは頭が良くねぇから、全部先生にまかせる」と答えてくるような患者さんでした。

 ある日、その患者さんが胸部CTの撮影に呼ばれました。彼が車イスに移乗して病棟を出棟しようとした、その矢先。

 パンッ!

 突然大きな破裂音。私たちはあまりの音に驚いてその場に立ちすくんでしま いました。しかし彼は、素早く車イスから降りて簡易診察室の影に身をひそめました。普段の彼の動きからは想像できないくらい素早い動き だったのを覚えています。

 そう、患者さんは破裂音を銃声だと思ったのです。

 しかし、10秒、20秒と経っても、特に病棟には何も変化はなく―――。物影に身をひそめた患者さんも「はて……?」と訝しげに辺りをうかがい始めました。

著者プロフィール

倉原優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)●くらはら ゆう氏。2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て08年から現職。08年から始めた自身のブログ「呼吸器内科医」をベースにした書籍『「寄り道」呼吸器診療-呼吸器科医が悩む疑問とエビデンス-』を、2013年に刊行した。

連載の紹介

倉原優の「こちら呼吸器病棟」
倉原氏は、呼吸器病棟で活躍する若手医師。日々の診療や、患者さん・他の医療スタッフとのやりとりを通して倉原氏が感じたことを、呼吸器領域ならではのtipsを交えて語ります。呼吸器診療の息遣いが垣間見えるブログです。

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