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診療明細書の保管を勧める医師になってほしい

2011/05/26

 前回のブログから1年が経過してしまいました。毎日毎日、書きたいことがたくさんあったのに、それ以上に日々の必要な業務をこなしていくことに精一杯で、ブログを更新できなかったことをおわびいたします。

 私はこの4月で中央社会保険医療協議会中医協)の委員の任期を終えました。6年前の中医協改革以降、「委員の任期は2年任期で連続3期まで」という規定になりました。その6年間の任期を全うさせていただいたことになります。これからも、私の中医協委員時代をサポートしていただいた日本労働組合総連合会(連合)の「患者本位の医療を確立する連絡会」の委員を続けながら、中医協を見つめていきたいと思っています。また、日本医療機能評価機構産科医療保障制度の委員として、そして医療問題に関する様々な市民運動にかかわる者として、ブログを続けていけたらと思っています。

 さて、昨年4月より始まった診療明細書の全患者への無料発行の原則義務化から1年が経過しました。前回の私のブログでは、『「診療明細書の発行はムダ」との批判に反論します』というタイトルで、「領収書ならば合計額だけでいいのではないか?」「診療明細書の発行は紙の無駄ではないか?」「明細書の発行は医療機関をより忙しくさせるのでは?」などの批判に対する私の意見を述べさせていただきました。

 その際に「告知の問題をどうするのか?」「患者が見てもその内容が分かるのか?」「不要だと思っている人もいるのではないか?」「明細書発行の前に診療報酬の名称や点数を分かりやすくすべきでは?」などの批判に対する私の考え方を書く、としていました。今年2月に神奈川県保険医協会が、今年4月に中医協の検証部会が、それぞれ、患者と医療者に対して行った診療明細書発行に関するアンケートの結果をまとめました。それについても書きたいことはあるのですが、宿題を残したままのようで落ち着かないため、まずは積み残した話から再開したいと思います。

癌の告知は本当にダメなのか
 1点目は「診療明細書の発行によって、患者が病名を知ってしまうことで問題が生じないか」という、いわゆる「告知の問題」です。これは、1997年6月まで、「レセプトを患者本人に絶対見せてはいけない」と当時の厚生省が指導していた際の理由にも使われていました。レセプトを原則として患者本人に開示するよう厚生省が方針転換し、カルテ開示の議論が始まりましたが、その際も強行にカルテ開示に反対をしていた医師たちの理由は、やはり「告知の問題」でした。患者に病状や診療内容を知る権利があるのではなく、患者に本当のことを伝えるかどうかは医師が決める、という考え方です。

 私は、それまでのような患者に本当の病名を伝えなかった医療というのは、それ自体があまりにも独善的だったのではないかと考えています。「告知の問題」は、診療明細書の発行に伴う問題ではなくて、情報開示全体の問題です。患者本人への癌告知率が20%程度だった90年代ならばともかく、厚労省の研究班の報告によれば、2007年には告知率は65.7%まで上昇しています。治療方法にさまざまな選択肢がある中、癌患者に対して、「『癌ではない』、と嘘を言い続ける方が良い」という考え方は過去のものです。今後も告知率が下がるとは考えられませんし、告知を否定するのではなく、告知の方法を研鑽していくことこそが、今の医療が目指すべき方向ないかと思うのですが、いかがでしょうか。

著者プロフィール

勝村久司(中央社会保険医療協議会委員、高校教諭)●かつむら ひさし氏。1990年、陣痛促進剤を使った出産で長女を失い、その医療裁判を機に市民運動に取り組む。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」世話人。

連載の紹介

勝村久司の「『患者本位』とは何か」
医療事故や薬害の被害者団体などで市民運動を続ける一方、さまざまな職種の医療関係者とも交流を続つ勝村氏が、医療に強い関心を持つ「一般市民」の視点で本来あるべき「患者本位の医療とは何か」について語ります。

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