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「格差」を見ずして医師を増やせば、「格差」を広げるだけ

2009/10/21

 極端な格差は社会を不安定にさせます。ところが、この「格差」は、議論を「合計」や「平均値」ばかりを用いて行っていると、全く見えなくなってしまいます。これらは最大値や最小値、すなわち格差を隠してしまうからです。

 医療の社会も同じです。長い間、医療界では、総額や総数などの合計や平均の数字を中心にして問題が議論されてきました。そのため、格差が放置され、拡大してきたのです。夜間休日と平日昼間、都会と過疎地の地域間の医療提供体制の格差をはじめ、開業医と勤務医、診療科間、医療職種間の待遇の格差など、人にも体制にも質にも、さまざまな格差が存在しています(それぞれの格差の問題の詳細については、今後の連載で触れていければと思っています)。

 医療の経済的な要因を決める中医協(中央社会保険医療協議会)は、今から5年ほど前のいわゆる「中医協改革」によって大きく変わりました。その改革の一つが、それまで中医協の大きな役割であった「診療報酬全体の改定率」は内閣が決定し、中医協は、その枠の中で個々の医療の単価である診療報酬を決めることに専念する、ということでした。

 私が患者の立場で初めて中医協の支払い側の委員にならせていただいたのも、そのときの中医協改革の一つでした。その際、何人かの記者の方から、「せっかく新しく中医協が生まれ変わるのに、診療報酬全体の改定率を決める権限が縮小されて残念ですね」と言われましたが、私はその方が理想的だと思っていました。診療報酬全体を何%上げるか下げるかのような総額を決める“力相撲”をする別のところでしてもらうことによって、今まで以上に、医療の中身の格差を是正していくための議論に時間をかけられるのではないかと思ったからです。

 このように中医協は姿を大きく変えていたのですが、この間マスコミなどで大きく取り上げられ、注目されてきたのは、医療費の総額や医師数など、合計や平均の数字だけを見るような内容のものばかりで、改革後の中医協の役割である医療の格差の問題が注目されることはほとんどありませんでした。

著者プロフィール

勝村久司(中央社会保険医療協議会委員、高校教諭)●かつむら ひさし氏。1990年、陣痛促進剤を使った出産で長女を失い、その医療裁判を機に市民運動に取り組む。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」世話人。

連載の紹介

勝村久司の「『患者本位』とは何か」
医療事故や薬害の被害者団体などで市民運動を続ける一方、さまざまな職種の医療関係者とも交流を続つ勝村氏が、医療に強い関心を持つ「一般市民」の視点で本来あるべき「患者本位の医療とは何か」について語ります。

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