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自粛の「解禁ムード」に募る危機感

2020/03/26

 新型コロナウイルス対策での自粛の「解禁ムード」に危機感を覚える。政府の専門家会議は3月19日に示した見解で、欧米のような「オーバーシュート」(爆発的な患者急増)が国内で起こり得ると指摘した。にもかかわらず、この警告が世の中に伝わらず、文部科学省が春休み明けの学校再開に関する指針を策定したこともあり、解禁ムードが漂っている。格闘技の大イベントまで開催されてしまった。

 自粛による経済的損失、社会機能の麻痺といったマイナスは大きい。だが、多くの生命が失われている緊急事態に「一定程度感染が抑えられている」という現況を頼りに自粛を緩めていいものだろうか。医療従事者と、一般社会とのコミュニケーションの難しさをつくづく感じる。

 最近、オランダ在住の友人から下記のようなメールが届いた。

 「新聞紙上で、私と同年代(60代)の医師の、『集中治療施設の運用には多額の費用がかかる。新型コロナ感染者でなくても、そこで治療して完全に回復が見込めない場合には、患者との相談あるいは医師の判断で、普通の入院を勧め、集中治療はやらないことがある。今回の新型コロナの感染でも、高齢者の場合は、完全に回復して自立して生活できなくなる可能性もあるし、自分だったら、集中治療は辞退して、もっと若い人の回復のためにベッドを譲る』という話が出ていました。(中略)植物状態になるよりも尊厳を持って死んだほうがいいという世論ができているから言えることなのだと思います。私たち夫婦も、改めて集中治療について考え、もしそうなったら、治療はいらないね、と話したところでした」

 もちろん、日本でこのような対応を推奨したいわけではない。ただ、イタリア、スペイン、フランスなど新型肺炎が猛威を振るっている現場では、患者さんに対して事実上のトリアージが行われ、助かる見込みの高い人からICUに送られている。

 日本では、手洗いの励行、密閉された空間・人が密集する場所・人と人が間近に会話する場面を避けるといった行動変容で、どうにか一定程度、感染が抑えられているとされる。このタガが外れてオーバーシュートが起きたら、私たちも中国やヨーロッパの医師たちのようにトリアージ的行為を迫られることだろう。覚悟しておかなくてはなるまい。

著者プロフィール

色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。

連載の紹介

色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。

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