日経メディカルのロゴ画像

COVID-19の拡大で重み増す保健所長の役割

2020/02/27

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大期に入ったようだ。私が住む長野県でも、2月25日に感染者が確認されたとの発表があった。

 同日に国は、対策の基本方針を公表。地域で患者数が大幅に増えた場合、一般の医療機関の外来で、診療時間や動線を分けるなどの感染対策を講じた上で、感染を疑う患者を受け入れる方針を示した。風邪症状が軽度の場合は、自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、相談センターまたはかかりつけ医に相談した上で受診するとしている。

 徐々に「一般の医療機関」での診療が迫ってくるとともに思い出すのが、2009年から感染拡大した新型インフルエンザへの対策として設置された「発熱外来」だ。当時、私が勤務する佐久総合病院は、まだ建物をリニューアルする前で、古い本院の敷地に仮設の発熱外来を設け、押し寄せる患者さんたちを診た。しかし、発熱外来の運用は簡単ではなかった。

 2010年5月に開かれた「新型インフルエンザ対策総括会議」(座長:金澤一郎日本学術会議会長:当時)では、発熱外来に様々な批判が浴びせられている。

 「発熱が珍しい状態ではない小児に、発熱外来は無意味。発熱した全ての場合に発熱外来を受診させると、感染していない小児の曝露の危険が高まる。小児の特性を考慮してほしい」、「一般の医療機関において、時間的・空間的に発熱患者とその他の患者を区分することは事実上不可能」、「国は画一的に“あるべき対応”を求め、机上の論理を現場に無理矢理適用するのではなく、実現可能な計画を立てるべきだ」──といった批判が噴出している。

 一方、この会議で仙台市の健康福祉局次長は、軽症患者は特定の発熱外来ではなく、近隣の診療所(329施設が協力)を受診し、中等・重症者には21の病院で治療を行う「仙台方式」の体制を紹介している。この方式は、2003年にSARSが流行したときに「患者お断り」の医療機関が出たことから、市長や地域の医師会が医療提供への危機感を持ち、協議を重ねて構築されたという。

 国の方針と地方の現場の実情にギャップがあるのは、今に始まったことではない。地方は、二次医療圏ごとの実情を踏まえて「柔軟」に対応しなくてはならないだろう。特に致死率が高い80歳代以上の高齢者への医療提供は、地域によってかなり事情が異なる。病院や診療所の都合だけでなく、介護施設や在宅介護事業所、ボランティアなど地域の状況に応じて、考える必要がある。

 そこで、今まで以上に大切な役割を担うのが保健所長だ。国は、「帰国者・接触者相談センター」を保健所に置き、市民からの相談窓口に指定している。大都市圏では保健所長の役割が軽視されがちだが、地方では医師免許を持つ保健所長は、地元医師会や病院、介護福祉施設などとも直接やり取りできる貴重な存在だ。

 自然災害発生時の保健・医療面での対応でも最大のキーパーソンとなり得る、行政情報と公衆衛生情報の両者を束ねる「ハブ」のような存在であり、保健所長の調整能力が感染症の拡大を左右すると言っても過言ではない。会議体の設置、運営など、保健所長が動きやすくなるような環境づくりが求められる。

著者プロフィール

色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。

連載の紹介

色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。

この記事を読んでいる人におすすめ