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東日本大震災と生活保護

2011/09/28

 先日、宮城県南三陸町の公立志津川病院を訪ねた。
 空っぽの5階建て鉄筋コンクリートの巨大な塊を前に、絶句した。

 南三陸町の死者・行方不明者は901人で、
 町民の約20人に1人に当たる。
 宮城県全体では、234万人の県民のうち、死者・行方不明者は1万1574人。
 県民の200人に1人が、震災で死亡もしくは行方不明になっている。
 亡くなられた方々のご冥福をお祈りする
 (死者・行方不明者の統計は9月27日付のもの。
 宮城県の人口は3月1日付の概況、南三陸町の人口は2月末のもの)。

 東日本大震災のダメージが、社会全体に拡がっている。
 被災地での医療や介護のサービス提供は、従前想像していた以上に困難だ。
 震災で死者・行方不明者が約4000人に上った宮城県石巻市では、
 介護保険担当者が「人口動態が不安定で、どこに誰がいるのかをつかむのも難しい。
 3年先まで見通すのは無理だ」と胸中を吐露している(朝日新聞9月19日朝刊)。

 被災地では、高齢者のみならず、あらゆる世代で人が動いている。
 住民基本台帳と実際に住んでいる人の「突き合わせ」が難題なのだ。
 今年度は、介護保険を運営する市町村が3年に1度、
 事業計画を練り直す時期に当たっている。
 だがしかし、とてもプランニングできる状況ではない。

 原発事故で人口の約4割が県外に避難した福島県浪江町だが、
 4~7月だけで要介護認定の新たな申請が235件に及び、昨年1年分を超えたという。
 異常事態の連続で、高齢者の健康状態は急激に悪化している。

 浪江町のほかにも多くの自治体が、今年度までの計画の
 暫定延長を認めるよう国に求めている。
 被災地での介護保険事業は、3年ごとの見直しという枠をいったん外し、
 単年度ごとに自治体の一般会計や、国の補助金を財源に充てる措置が必要だろう。

 医療の供給側も危機的状況だ。

 南相馬市の緊急時避難準備区域(福島第一原発から半径20~30キロ圏内)では、
 病院の常勤医師数が46人から27人に激減している。
 開業医を含めると医師数は、さらに減ったとみられる。
 南相馬市のこの区域には5病院あるが、そのうち
 3つの病院が短期の入院患者だけを受け入れている。
 南相馬市立総合病院は、入院・手術とも再開したものの、
 震災前に12人いた医師は7人に減ったままだ。産婦人科は休診中である
 (朝日新聞8月30日付朝刊)。

 被災者は、医療費の自己負担を免除されているが、
 それが周知されていないケースもある。
 被災者は、全国47都道府県の自治体に散っている。
 直接的な被害を受けていない自治体の中には医療費免除を知らず、
 トラブルが生じているところもあるという。

著者プロフィール

色平哲郎(JA長野厚生連・佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医長)●いろひら てつろう氏。東大理科1類を中退し世界を放浪後、京大医学部入学。1998年から2008年まで南相木村国保直営診療所長。08年から現職。

連載の紹介

色平哲郎の「医のふるさと」
今の医療はどこかおかしい。そもそも医療とは何か? 医者とは何? 世界を放浪後、故若月俊一氏に憧れ佐久総合病院の門を叩き、地域医療を実践する異色の医者が、信州の奥山から「医の原点」を問いかけます。

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